岡山弁護士会所属
岡山富田町のかかりつけ法律事務所
肥田弘昭法律事務所

お知らせ

一覧に戻る

2024年07月01日

セブンイレブンジャパン東京高等裁判所判決~優越的地位の濫用違反とその損害認定について~

1 要旨(ウエストロー裁判年月日  平成25年 8月30日  裁判所名  東京高裁  裁判区分 判決 事件番号  平21(ワ)5号事件名  損害賠償請求事件裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  上告、上告受理申立て  文献2013WLJPCA08306002)
「公取委が、コンビニエンス・ストアのフランチャイザーである被告に対し、デイリー商品に係る見切り販売の取りやめを加盟者に余儀なくさせることにより、廃棄に至るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を加盟者から失わせるといった被告の行為は、優越的地位の濫用に当たるとして、同見切り販売に対する制限行為の取りやめなどを命じる排除措置命令を発し、これが確定したため、見切り販売の妨害行為によって損害を被ったとする被告の加盟者である原告らが、独禁法25条に基づく損害賠償を求めた事案において、被告による原告らに対する組織的な見切り販売妨害行為は認められないが、個別的な見切り販売の妨害行為は認められるから、被告の本件違反行為は正常な商慣習に照らして不当に取引の実施について原告らに不利益を与えたもので、独禁法19条に違反する違法な行為に当たるとして、各請求を一部認容した事例」である。下記では損害認定について整理する。
 2 セブンイレブンジャパン東京高等裁判所判決が先例として重要である(東京高等裁判所判決平成25年8月30日参照)。以下では損害論の規範定立部分を指摘しながら整理する。
①「ア 被告は,前判示の各違法行為により,見切り販売を行おうとし,又は行っている原告らに対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,原告らが自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせることにより,見切り販売の妨害行為がなければ回避できたであろう損害,具体的には,①ある時間以降に見切り販売を行った場合の利益から②ある時間以降も見切り販売を行わなかった利益を控除した額の損害を被らせたものである。」として差額説を前提にしている。また、見切り販売の妨害行為がなければ回避できたであろうとして消極的損害であることを当然ながら認定している。
②「しかしながら,①及び②を得るためには,現実に見切り販売を実施していない時期に,①の見切り販売を行った時間中の商品の売上げを算定する必要があり,一定の仮定に基づく推論が不可欠である上,恒常的な見切り販売の実施により顧客の購買行動が変化すること等の間接的な影響を踏まえて,デイリー商品の見切り販売実施に伴い,デイリー商品と非デイリー商品のそれぞれの増減等を考慮して,見切り販売を開始前後の売上高の動向及び仕入高,不良品額の増減等を算定し,見切り販売開始前後における加盟店の利益を算出する必要があるところ,これらの各要素は,当該店舗の顧客の購買行動だけでなく,近隣他店の開店,閉店の状況,近隣地域の住民人口及び住民の年齢等の変化の状況,景気動向などを含む他の多くの諸要素と複雑に絡み合って相互に影響し合うものであり,上記の①及び②を証拠に基づき具体的に認定することは極めて困難であるといわざるを得ない。したがって,本件においては,原告らに損害が生じたことは認められるものの,損害の性質上,その額を立証することが極めて困難であるから,民訴法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定すべきものである。」として、損害算定期間において侵害行為がなければ達成できた売上げの額を推計することが困難であることを指摘し、民訴法248条の適用をしている。
③「原告らそれぞれにつき,その店舗における商品の販売により得られる利益の多寡に影響を及ぼすと考えられる諸要素,すなわち,見切り販売を妨害されていた期間(以下「見切り販売妨害期間」という。)の長さ,見切り販売妨害期間期間及び見切り販売開始後における,売上高,商品等仕入高,商品廃棄等(不良品)額,売上総利益,セブン-イレブン・チャージ額及び利益の各総額及び年平均額を記載した別紙損害算定のための参考数値表を参照し,それぞれの額の変動等を踏まえながら,本件に顕れた全ての事情を総合して,原告らの損害を認定することとする。なお,損害額の算定が困難であるにもかかわらず,被告に対し損害賠償義務を負わせる以上,当該賠償額の算定に当たってはある程度謙抑的かつ控え目に認定することを避けられない。また,下記のイないしオの商品等廃棄額には,デイリー商品だけではなく非デイリー商品も含まれるけれども,弁論の全趣旨によると,廃棄商品のほとんどがデイリー商品であると認められるので,この点も踏まえて検討する。」として、本件事案の性質上、変動経費の算定が困難であることから、各種の統計資料などを踏まえて、原告の損害額の認定をしている。
以上の通り、民訴法248条の適用の前提として低く損害が見積もられており問題である。優越的地位の濫用の抑制の観点からも損害額の認定は重要であり、損害額の推定など立法的解決も私はすべきかと考える。