岡山弁護士会所属
岡山富田町のかかりつけ法律事務所
肥田弘昭法律事務所

お知らせ

一覧に戻る

2024年06月20日

学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(日本版DBS法)とは?

1 こども家庭庁のホームページより学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案(以下「法」と言います)の概要が現時点(令和6年6月20日)で分かりやすい資料ですので情報提供します。
2 まず、法の趣旨は「児童対象性暴力等が児童等の権利を著しく侵害し、児童等の心身に生涯にわたって回復し難い重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童等に対して教育、保育等の役務を提供する事業を行う立場にある学校設置者等及び認定を受けた民間教育保育等事業者が教員等及び教育保育等従事者による児童対象性暴力等の防止等の措置を講じることを義務付けるなどする。」点にあります。私も刑事弁護を多数しておりますので児童が被害者になる性犯罪の事件も担当しています。PTSDとして深刻な被害が生じますので当該趣旨には賛成です。
3 次に法の内容についてです。
(1)「1.学校設置者等及び民間教育保育等事業者の責務等
学校設置者等(学校、児童福祉施設等)及び民間教育保育等事業者(学習塾等)について、その教員等及び教育保育等従事者による児童対象性暴力等の防止に努めるとともに、被害児童等を適切に保護する責務を有することを規定」とありますので、後記のとおり性犯罪の事実の有無など実際の採用の場面でも確認することになるかと思います。
(2)「2.学校設置者等が講ずべき措置
学校設置者等が講ずべき措置として以下のものを規定
・ 教員等に研修を受講させること、児童等との面談・児童等が相談を行いやすくするための措置
・ 教員等としてその業務を行わせる者について、4に掲げる仕組みにより特定性犯罪前科の有無を確認
→ これらを踏まえ、児童対象性暴力等が行われるおそれがある場合の防止措置(教育、保育等に従事させないこと等)を実施 ・ 児童対象性暴力等の発生が疑われる場合の調査、被害児童等の保護・支援」とあります。問題点は、「児童対象性暴力等が行われるおそれがある場合」について「保育等に従事させないこと」すなわち仕事に従事させないことです。「おそれ」ですのでどのような証拠があれば自動対象性暴力などがされるおそれになるのか曖昧であり、他方、その認定をされた者は、法により一定の仕事ができなくなることから今後恣意的運用されれば重大な問題になるおそれがあるかと私は思います。
(3)「3.民間教育保育等事業者の認定及び認定事業者が講ずべき措置
・ 内閣総理大臣は、2に掲げる学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている事業者について、認定・公表
・ 認定事業者には2に掲げるものと同等の措置実施を義務付け
・ 認定事業者は、認定の表示可能
・ 認定事業者に対する内閣総理大臣の監督権限の規定を創設」とあります。認定されていることを公表できることは国民に対する信頼にもなりますので事実上学習塾等は認定が必須になるかと思います。他方、認定事業者は「認定事業者に対する内閣総理大臣の監督権限の規定を創設」とありますので、内閣総理大臣に統制されることになります。どの程度統制力が行使されるかによりますが一歩間違えれば学習の内容まで統制が及ぶ危険があるかと私は思います。
(3)「4.犯罪事実確認の仕組み等
・ 2及び3の対象事業者が内閣総理大臣に対して申請従事者の犯罪事実を確認する仕組みを創設する。当該仕組みにおいては、対象となる従事者本人も関与する仕組みとする。
・ 内閣総理大臣は、対象事業者から申請があった場合、以下の期間における特定性犯罪(痴漢や盗撮等の条例違反を含む)前科の有無について記載した
犯罪事実確認書を対象事業者に交付する。ただし、前科がある場合は、あらかじめ従事者本人に通知。本人は通知内容の訂正請求が可能
ア 拘禁刑(服役):刑の執行終了等から20年
イ 拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了):裁判確定日から10年
ウ 罰金:刑の執行終了等から10年
・ 犯罪事実確認書等の適正な管理(情報の厳正な管理・一定期間経過後の廃棄等)」とあります。10年ないし20年ですので、性犯罪者の社会復帰の妨げにならないか、職業選択の自由を制約しないかなど憲法上の問題も生じかねません。
(4)「5.その他
・ この法律案に定める義務に違反した場合には児童福祉法等に規定する報告徴収等の対象となること等を規定【学校教育法、児童福祉法、就学前の子どもに関する教育、保
育等の総合的な提供の推進に関する法律】
・ 施行後3年後の見直し・検討規定を設ける」とのことであり、間接強制となっています。
(5)「施行期日:公布の日から起算して2年6月を超えない範囲において政令で定める日」とありますので、施行された日に備える必要があるかと思います。
以上