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肥田弘昭法律事務所

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2019年04月04日

刑事弁護~情状について~

刑事弁護において、情状が刑の量刑を決める上でも、保釈決定の上でも非常に重要です。
情状事実は、犯罪事実に関する情状(犯情事実)とそれ以外の一般情状に大別されます。
このうち量刑においては犯情事実が一般情状に比し重要であり、弁護人の活動としても犯情事実を重視すべきである(平成18年度版・刑事弁護実務・司法研修所・347頁)されていますが、我が事務所の経験では、被害者がいる場合は、示談等の成否、いない場合も、再犯防止のための環境整備の方が、重視される傾向にあるように思われます。
以下では、被疑者・被告人段階を通じて、情状として一般的に考慮される点を述べます。
これは、被疑者段階においても、起訴不起訴を検察官が決定する権限があることから、特に認め事件において、下記を参考に、自己に有利な情状を収集して、検察官に提出・主張することで、不起訴処分など有利な判断を引出すことが可能かと思います。
1 犯行態様について
□ 悪質でない
□ 計画的でない
□ 稚拙な犯行
□ 未必の故意
←薬物事犯の場合は、情状として裁判官が採用してくれる場合があります。
2 犯行動機
□ 生活苦からの犯行
□ 義憤に駆られた犯行
□ 私利私欲のためでない
□ 飲酒のうえでの犯行
□ 被害者にも落ち度がある
←但し、性犯罪の場合は、慎重にすべきです。被害者感情を害してしまいます。
□ 不幸な生い立ち
□ その他、同情すべき事情がある
3 被害(結果)
□ 被害軽微
□ 利得を得ていない
□ 未遂
4 共犯関係
□ 従属的である
□ 関与の度合いは低い
□ 他の共犯者に逆らえない立場にあった
□ 共犯者の刑が軽微
5 被害弁償・被害感情
(1) 示談金の交渉における提示額等
 我が事務所は、示談金等の額については「慰謝料算定の実務(第2版)」(千葉県弁護士会編)や傷害事件の場合は、交通事故の損害賠償算定を参照しながら、被告人が用意できる額で交渉しています。
また、相手方及び被告人の同意があれば、分割払いの示談書の作成も検討することが重要です。
被害者のいる場合は、最も重要な情状です。起訴不起訴や保釈にも大きな影響があります。
(2) 個別の注意点
□ 示談成立
→宥恕文言・本件に関し債権債務がないことの条項は必須です。
(交通事故の場合)後遺障害の認定等で公判までには示談が成立しない場合が多いです。→別途、見舞金を出す。任意保険証を証拠として出し、示談成立見込みとするとよいです。
□ 被害弁償
→債権債務関係がないとの清算条項がない場合です。
□ 被害者の宥恕
□ 被害者による減刑嘆願
→宥恕文言は必須。
□ 被害の一部弁償
→被害店舗等でない場合、領収書は、本件公訴事実と関連性があるように作成すること。
□ 被害回復の努力
→示談状況等報告書を作成し提出するとよいです。
□ 被害品の還付
→証拠開示書類にあるのでその点を弁論要旨で指摘すること
□ 被害者にその他の慰藉の措置を講じている
→ストーカ事案で、2度と近づかないことや県外への引っ越し(親の実家が広島県、車移動を親の監督下において、仕事以外に使用させない等)→被害者と距離を置くことで、被害者の不安感を取り除く措置。→被告人質問及び示談書の条項に盛り込むことで証拠化した経験があります。
6 被告人の反省(証拠としては、反省文と被告人質問)
□ 被害の大きさの理解
□ 被害者に対する謝罪
□ 犯行原因に対する被告人の理解
□ 犯行の社会的影響に対する被告人の理解
□ 犯行が家族・友人等の近親者に与えた影響に対する被告人の理解
□ 家族・友人等の近親者に対する謝罪
□ 反省文(謝罪文)の作成
←作成年月日と氏名を書かすことを忘れないことが重要です。なぜなら、証拠として出すときに誰が書いたかを明らかにするためです。
□ 真摯な供述態度
□ 自首
□ 被害の拡大防止
□ 捜査への積極的な協力
□ 余罪の自供
□ 贖罪寄付
←弁護士会に簡単にできる仕組みがあります。
7 更生のための環境整備
□ 更生への意欲
□ 家族・友人等の近親者の支援
→身元引受書
→情状証人と出てもらうこと。
□ 犯罪組織(暴力団等)からの脱退
→次の相談機関と連帯する方がよい(岡山県内の場合です)
① 暴追センター(公益財団法人岡山県暴力追放運動推進センター)
    電話 (086)233-2140
       (0868)22-2140(津山連絡所)
    暴対法に基づいて設置された公益財団法人。暴力団員による不当な行為の防止とこれによる被害の救済に寄与することを目的として設立。
 ② 岡山弁護士会 民事介入暴力被害者救済センター
   代表(086)223-4401
   民暴に詳しい弁護士が当番制で早急に相談に応じる。場合によっては県警や暴追センターと連携して事案の解決を図る。
□ 交友関係の改善
□ 生活保護受給の見込み
□ 就職先の確保
←情状証人として雇い主が出てくれると強いです。駄目な場合は、身元引受書に就職予定等を書いてもらい提出。
□ 若年
□ 断酒
→断酒会などの活動に参加するとよいです。
8 実刑判決が被告人・家族等に与える影響
□ 家族の精神面への悪影響
□ 家族の経済面への悪影響
□ 被告人が子どもを養育する必要がある
□ 被告人が親を介護(看護)する必要がある
□ 勤務先への支障
□ 被告人の体調不良
←診断書の提出。
□ 被告人が高齢
9 社会的制裁等
□ 解雇(倒産)
□ 退学
□ マスコミによる批判
□ 免許剥奪
→交通事故の場合等。別途行政処分を受けたこと。
□ 長期の身体拘束(=実質的刑罰を受けたと評価)
□ 正式裁判初めて
□ 違法捜査を受けた
10 再犯可能性
□ 前科・前歴がない
□ 同種の前科・前歴がない
□ 常習性がない(単発的犯行)
□ 犯行原因の消滅
□ 具体的な予防策の確立
 11 不利の情状事実については弾劾すること。

 以上の通り、認めている事件においても、情状事実は多岐にわたります。また、重要な点は、逮捕・勾留された被疑者段階から、適切な情状事実を積み重ねることにより、不起訴処分を検察官から引出す点にあります。上記の情状を参考にしてください。