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2019年03月24日

交通事故~内縁配偶者の扶養利益喪失による損害賠償請求~

問)私は、20年以上、内縁の夫と生活しています。生活費は、内縁の夫に頼っていました。しかし、突然、内縁の夫が、交通事故に遭い死亡してしまいました。私は、たちまち生活に困窮してしまいました。この場合、内縁配偶者の私は、扶養利益を喪失したとして、加害者に対して損害賠償請求は可能でしょうか。
答)
1 内縁の配偶者は、扶養利益の喪失を損害として、加害者に対して、損害賠償請求が可能です。
2 最高裁判例(最三小判平成5年4月6日民集47巻6号4505頁)は、自賠法72条1項に定める「『被害者』とは、保有者に対して損害賠償の請求をすることができる者というと解すべきところ、内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者が受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその損害を請求することができるものをいうべきであるから、内縁の配偶者は、同項にいう『被害者』に当たると解するのが相当である」と判示しました。
 この事案は、ひき逃げ事案であったため、加害者不明であり、政府の自動車損害賠償保障事業による損害てん補金の請求でしたが、この最高裁判例は、初めて、内縁配偶者について、扶養利益の喪失を逸失利益として肯定しました。
 また、この場合は、被害者に相続人がある場合は、被害者の逸失利益の損害項目において、調整されるべきであると判示しています。
 但し、内縁配偶者の扶養利益喪失の損害については、相続人が相続によって取得する被害者(死亡者)の逸失利益の額と当然に同じ額となるものではなく、個々の事案において、扶養者の生前の収入、そのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分、被扶養者各人につき扶養利益として認められるべき比率割合、扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきであると最判平成12・9・7で指摘されています。
したがって、内縁配偶者の扶養利益喪失の損害が、必ずしも、相続人が相続によって取得する被害者(死亡者)の逸失利益の額と同額となるわけではない点に注意が必要です。