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肥田弘昭法律事務所

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2019年03月16日

職場内のハラスメントについて


第1 職場で問題になりうるハラスメント
 1 妊娠・出産・育児休業・介護休業などについて
(1) 事業主は、妊娠・出産を理由とする不利益取扱を禁止(男女雇用機会均等法9条3項)、育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止(育児・介護休業法10条など)されています。
(2) 上司・同僚からの育児・介護休業などに関する言動により育児・介護休業者などの就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(育児・介護休業法25条)、上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産などをした女性労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(男女雇用機会均等法11条の2)
(3) 上記の法律は、事業主に防止措置を義務づけているので、直接、上司・同僚などの従業員間に適用されない。
 しかし、法律上、上司・同僚間で、①育児・介護休業などに関する言動②上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動が「ハラスメント」となりうることが法律上明らかにされた点に注意する必要がある。
2 セクシャルハラスメント
(1) 事業主は、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(男女雇用機会均等法11条)
(2) 性的な言動のみならず、「男らしさ」「女らしさ」などの固定的な役割分担意識に基づく発言も、セクシャルハラスメントになります。
3 パワーハラスメント
(1) 定義
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為(明るい職場応援団HP)
   上司から部下に行われるものだけではなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものを含むとされています。
 (2) 法律的に明確な基準はなく、パワーハラスメントは法律用語ではありません。パワーハラスメント認定基準は、労働者災害補償保険法の認定基準である①業務遂行性、②業務起因性が参考にされます。
第2 問題となりうる発言など
 1 妊娠・出産・育児休業・介護休業などについて
  以下は、〔職場におけるハラスメント対策マニュアル(厚生労働省)4頁以下参照〕で、厚生労働省が問題視している発言例です(仮に、裁判などになった場合は、公的機関が作成したマニュアルなどが証拠として提出されることがあります。)
(1) 上司・同僚→妊娠・出産した女性労働者
・妊娠を報告してきた部下に「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」
・妊婦健診のための休暇を申請した部下に「病院は休みの日に行けるだろう」
・時間外労働の免除について相談してきた部下に「次の査定では昇進しないと思え」
・簡易業務転換を利用している同僚に「正社員の仕事ができないならパートになればいいのに」
(2) 上司・同僚→育児休業などを申出・取得した男女労働者
・介護休暇を申請した部下に「君以外にも面倒をみてくれる親類がいるだろう」
・育児休業の取得を相談してきた男性の部下に「男のくせに育児休業を取るなんてありえない」
・育児短時間勤務を利用している同僚に「早く帰れる人は気楽でいいね」
(3) 妊娠・出産などに関するハラスメントの内容
① 制度などの利用への嫌がらせ型
 ・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
 ・制度などの利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
 ・制度などを利用したことにより嫌がらせなどをするもの
② 状態への嫌がらせ型
 ・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
 ・妊娠などしたことにより嫌がらせなどをするもの
2 セクシャルハラスメント
(1) 性的な言動
ア 性的な内容の発言
  性的な事実関係を尋ねること
  性的な内容の情報(噂)を流布すること
  性的な冗談やからかい
  食事やデートへの執拗な誘い
  個人的な性的体験談を話すこと 等
イ 性的な言動
  性的な関係を強要すること
  必要なく身体へ接触すること
  わいせつ図画を配布・掲示すること
  強制わいせつ行為 
  強姦                  等
(2) 注意点
  職場におけるセクシャルハラスメントは、同性に対するものも含まれます。
  また、セクシャルハラスメントの背景になり得る言動として、「男のくせにだらしない」「家族を養うのは男の役目」「この仕事は女性には無理」「こどもが小さいうちは母親は子育てに専念すべき」などの固定的な性別役割分担意識に基づいた言動があると注意喚起されています。
(3) セクシャルハラスメントの内容
ア 対価型セクシャルハラスメント
イ 環境型セクシャルハラスメント
3 パワーハラスメント
「明るい職場応援団HP」にある「パワハラの6類型」が参考になります。
 (1) 暴行・傷害など(身体的な攻撃)
 ① 足蹴り
 ② アルコール,シンナーなどで皮膚病やショックを起こす可能性が高い体質の被害者に対してシンナーを撤布した。
 ③被害者の上腕部をつねって全治2,3日の傷害を負わせた。
 ④火のついたタバコを当てた。
⑤被害者が警備艇に乗船中、急転舵させて後部デッキの被害者を転倒させて、通院加療1か月の傷害を負わせたりした。
⑥ 社内研修会において、商品販売目標を達成できなかった美容部員である被害者に対し、上司らが罰ゲームとして易者姿のコスチューム及びうさぎの耳形のカチューシャを着用させ、許可なく写真撮影をしたうえで、別の研修会でスライド撮影した。
(2) 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
①社長ほか役員も多数出席する研修会後の全員が出席する懇親会で、部長が、懇親会終了のスピーチの際、参加者全員の面前において、被害者のことを「頭がいいのだができが悪い」、「何をやらしてもアカン」、「その証拠として奥さんから内緒で電話があり『主人の相談に乗って欲しい』と言われた」など発言した。
②仕事に打ち込んでいた被害者に対し、先輩社員が、「お前みたいな者が入ってくるので、部長がリストラになるや」などと理不尽な言葉を投げつけたり、被害者が雇用会社の二次下請である建設会社の代表取締役の息子であることについて嫌みをいうなどした。
(3) 隔離・仲間はずれ・無視(人間関係からの切り離し。)
 2年以上の間にわたり、複数の女性社員から、以下の執拗ないじめや嫌がらせを受けた。
・被害者は、同僚の女性社員からパソコン操作について質問を受け、教えた際、同女からお礼としてケーキをもらったことについて、女性社員4名から「あほちゃう」「あれ[被害者]ケーキ食べたから手伝ったんやで」等と執拗な陰口を受けた。
・被害者に対するいじめの中心人物を含む女性社員4名から勤務時間中にIPメッセンジャーを使用して毎日のように同期らに被害者に対する悪口を送信された。
・コピー作業をしていた際、女性社員2名から目の前で「私らとおなじコピーの仕事をして、高い給料をもらっている」等言われた。
・加害者の席が異動により被害者の席の近くになった際、加害者を含む女性社員3名から「これから本格的にいじめてやる」等言わられた。
・女性社員1名から、被害者の目の前で、同社の他の社員に対し、「幸薄い顔して」、「オオカミ少年とみんながいっている」等と悪口を言われた。
(4)職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
・教員であった被害者が精神疾患による病気休暇明け直後であるのに、校長らは、従来の音楽科及び家庭科に加え、教員免許外科目である国語科を担当させ、その他の業務の軽減もなかったことなどから、業務量の増加による被害者の心理的負担は過重であった。さらに、このような状況の中で、校長は被害者に、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して身心の健康を損なう国語科の研究授業を命じ、その他の業務の軽減を行うこともなかった。
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと
・会社は、退職勧奨に応じない被害者に対し、統計作業を命じられて本件口頭弁論終結時までの約11年間、有用性に疑問のある統計作業に従事させた(仕事差別のほか暴力行為もあった事案)。
・路線バスを駐車車両に接触させる事故を起こしたバスの運転士である被害者に対して、期限を付さず(実際に行ったのは1か月)連続した出勤日に、多数ある下車勤務の勤務形態の中から最も過酷な作業である炎天下における除草作業のみを選択し、被害者が病気になっても仕方がないとの認識のもと、終日又は午前あるいは午後一杯従事させた。
(6)私的なことに過度に立ち入ること
・准看護師であった被害者は、①勤務時間終了後も、先輩准看護師の加害者の遊びに無理矢理付き合わされたり、被害者の看護学校試験前に朝まで飲み会に付き合わされたり、②加害者の肩もみ、家の掃除、車の洗車などの雑用を一方的に命じられたり、③加害者の個人的な用事のため車の送迎等を命じられたり、④被害者が交際している女性と勤務時間外に会おうとすると、加害者から仕事だと偽り病院に呼び出しを受けたり、加害者が被害者の携帯電話を無断で使用し、交際女性にメ-ルを送る等した。
第3 法的責任
 1 ハラスメントが職場で生じた場合、被害者は、加害者のみならず、使用者(会社)に対しても、法的責任が追及できる。
 2 法的主張
 ① 不法行為責任(民法709条)
 ② 使用者責任(民法715条)
 ③ 職場環境配慮義務違反による不法行為責任(民法415条) 等
以上