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岡山富田町のかかりつけ法律事務所
肥田弘昭法律事務所

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2019年02月17日

独占禁止法~小売業者に店頭以外の価格表示の制限をした場合~

問)私は、ある大手メーカーの法務部です。私どもが取り扱う商品Aは、その市場で大きなシェアを有しており、かつ、非常に人気で、小売業者間で、価格競争が激化し、そのため、私どもの粗利益が減少する可能性が出てきています。そこで、担当部署から、小売業者に対して、広告などの店頭以外の価格表示を制限すれば、小売業者間での競争が抑止できるのではないかと相談を受けています。このような条件を商品Aの販売するにあたり、小売業者に提示することは独占禁止法上の問題がないでしょうか。
答)
1 不公正な取引方法一般指定12項(拘束条件付取引)に該当し、独占禁止法19条に違反する可能性があります。
2 上記のご相談内容は、不公正な取引方法一般指定12項について、次の通り、要件を充足る可能性があります。
(1)一般指定12項の行為要件(拘束性)は、事業者が何らかの人的手段を用いることによって制限の実効性が確保されている場合に認められます。
ご相談者様のケースでは、「小売業者に対して、広告などの店頭以外の価格表示を制限」する点で、小売業者の広告宣伝の事業活動を制限しており、この要件を満たす可能性があります。
(2)「不当」(公正競争阻害性)について、流通・取引慣行ガイドラインは、本件のように価格それ自体を制限しない場合は、価格維持効果生じる場合に認められるとしています。
ご相談者様のケースでは、ご相談者様と他のブランドの競争で優位であり、かつ、取引先小売業者全てに広告制限を課した場合は、価格競争を制限し、ブランド内競争においても価格維持効果の可能性もあります。そして、後記3のように価格維持効果が具体的に認定されない場合でも、その行為の目的・意図を考慮して、価格維持効果があると一般的に推定される可能性があります。
(3)したがって、ご相談者様のケースでは、不公正な取引方法一般指定12項(拘束条件付取引)に該当する可能性があり、独占禁止法19条違反として、公正取引委員会から排除命令をされる危険性があります。
3 公正取引委員会平成21年12月1日排除措置命令がされた事案の概要について
(1) A社は、コンタクトの販売業者であり、我が国おけるコンタクトの販売高において業界界1位をしめていた。A社は、自社のコンタクトのほとんどを取引先小売業者に販売し、取引先小売業者は店頭販売または通信販売により、A社のコンタクトを一般消費者に販売していた。
(2)A社のコンタクトは、一般消費者の間において高い評価が得られており、指名して購入する一般消費者が多いことから、コンタクトの小売業者において、A社のコンタクトを取り扱うことが営業上有利であった。
(3)A社は、コンタクトの製品一覧表に「店頭以外で販売価格表示を行わないでください」との文言を記載して取引先小売業者に通知する、広告において当該製品の販売価格の表示を行う場合には当該製品の出荷を停止することもあり得る旨を取引先小売業者に説明するなどして、取引先小売業者に対し、広告において当該製品の販売価格の表示を行わないように要請した。同要請を受けた取引先小売業者は、概ね、当該要請を受け入れた。 
また、A社は、広告において当該製品の販売価格の表示を行った取引先小売業者に対して、当該販売価格の是正を行った。
(4)A社は、DDプラン(特定大口取引先を対象とするモイストの納入価格の引下げおよびリベートの支払を内容とする販売促進策)において、特定大口取引先がダイレクトメールを除く広告において当該製品の販売価格の表示を行わないことをDDプラン適用の条件とし、特定大口取引先がダイレクトメールを除く広告において当該製品の販売価格の表示を行った場合には是正を求め、当該特定大口取引先がこれに従わない場合には、DDプランの適用により引下げられたモイストの納入価格をDDプラン適用前の納入価格に戻す、DDプランの適用によるリベートを支払わない、などすることにした。
(5)その目的は、A社のコンタクト商品の価格競争を制限し粗利益の維持であった。
(6)上記のケースで、公正取引委員会は、取引先小売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、当該取引先小売業者と取引していたものであり、不公正な取引方法一般指定12項に該当するとして、独占禁止法19条に違反するとし、排除措置命令をしました。