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2018年12月10日

自筆証書遺言の注意点と改正点

問い】自筆証書遺言の注意点と改正点など教えて下さい。
答え】 自筆証書遺言の注意点と改正点は次の通りです。
1  自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者の真意を確保し、偽造、変造を防止するため、すべて自筆で作成することを求めています。そして、民法は、厳格な遺言の方式を規定しその方式を満たさない場合には遺言を無効とします。自筆証書遺言の場合は、遺言の全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押す必要があります(民法968条1項)。
2  自書とは
自書とは、文字通り自分で書くことです。したがって、パソコンなどによって作成することや代筆させることはできません。判例においては、カーボン複写を用いた遺言は自書の要件に欠けることなく有効です。自書する場合に他人の助けを借りる程度で、他人の意思が介入したと認められないことが筆跡上判定できる場合は、自書の要件を満たし有効です。
3  相続財産目録についての自書の要件の緩和
相続法改正により、平成31年1月13日から、自筆証書遺言の自書を一部緩和する改正が施行されました。
民法968条2項は、「前項の規定にかかわらず、自筆証書とこれと一体のものとして相続財産(第997条1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印をおさなければならない。」と改正し、自書を相続財産目録に関して、不要としました。ただし、その目録の毎葉に遺言者の署名及び押印を要求し、特に自書によらない記載が両面に及ぶ場合についてはその両面に遺言者の署名押印を要求することで、偽造を防止することにしました。これにより、相続財産目録に関しては、遺言者以外の代筆、パソコンなどによる作成、不動産登記事項証明書、預金通帳の写しなどを添付することが可能となりました。
4 日付の記載
日付は、遺言作成時の遺言作成者の遺言能力の有無、内容の抵触する複数の遺言がある場合にその先後関係を明らかにして撤回の有無の判断するために、自書して記載することが必要です。日付がない場合も、遺言は無効となります。日付は年月日を明らかにして記載して下さい。年月日が明らかになればよいので、西暦でも、元号でもかまいません。また、月日も、例えば、自分の誕生日としてもよいです。ただし、平成25年4月吉日という記載は日付の特定を欠くので無効です。日付の記載場所は、本文を記載して署名の前に記載されるのが通常です。ただ、裁判例として、遺言の全文、氏名を自書して押印したものを封筒に入れ封印(本文の印と同じもの)し、封筒に日付を自書した場合も有効としたものがありますが、争いにならないためにも、氏名の前に日付をいれることをお勧めします。
5 氏名の記載
氏名は、遺言者と同一性を確認することができれば足りますので、雅号などでもよいです。判例では、名のみの記載であっても、遺言の他の記載内容から遺言者の同一性が分かる場合には、有効としています。ただ、争いになりますので、署名は、戸籍上の氏名を正確に記載して下さい。
6 押印
押印は、遺言者の同一性及び遺言者の意思に基づくことを担保するためですので、原則として遺言者自身で押印して下さい。使用する印は格別制限ありません。判例は指印も有効としていますが、後の争いを防止するため、実印が望ましいです。ただ、遺言者の指示で他の者が押印した場合に有効とする判例もありますが、自分で押印することが後の争いを防止します。
7 自筆証書遺言の長所・短所
(1)  長所
自筆証書遺言の長所は、他の遺言の要式と異なり、簡易な点にあります。相続法改正により、相続財産目録に自書を要求しなくなったことから、ますます簡易性が向上しました。
(2)  短所
自筆証書遺言の短所は、上記のように、相続財産目録の点について自書が緩和されたものの厳格な要式であることは変わりなく、要式通り遺言を作成するのが困難であり、無効や紛争になりやすい点です。
(3)  自筆証書遺言の保管制度の新設
 今まで、短所として、自筆証書遺言においては、遺言者が、他の遺言と異なり、遺言書を書いたかどうか明らかでなく、遺言書の存在が不明となる事態があることが指摘されていました。しかし、この点について、平成30年7月6日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「法」と言います)が成立しました。これは、民法968条に定める自筆証書遺言にかかる遺言書のみ(法1条)を遺言書保管所(告示された法務大臣の指定する法務局・法2条)で遺言書保管官が取り扱います(法3条)。遺言書の保管申請は、申請者の住所若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対して、一定の事項を記載した申請書を添えて、申請者自ら出頭して行います(法4条)。その後、遺言書保管者が、遺言書の原本及びその画像情報等の遺言書にかかる情報を管理します(法6条1項、法7条1項)。遺言者は、遺言書が保管している遺言書保管所に遺言保管官に対して、自ら出頭した上で、いつでも遺言書の閲覧請求ができます(法6条2項、4項)。遺言者は、遺言書を保管している遺言書保管所の遺言書保管官に対し、いつでも保管申請を撤回できます(法8条)。この場合は、遺言書保管官は、遅滞なく、遺言書の返還及びその情報を消去する必要がります(法8条4項)。そして、何人も、遺言書保管官に対し、特定の死亡している者について、請求者が相続人、受遺者等となっている遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうか、保管されている場合に遺言保管事実証明書の交付を請求できます(法10条)。相続人、受遺者等は、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面の交付を請求出来ます(法9条1項)。
 これにより、今まで、短所として、指摘されていた自筆証書遺言を一定の限度で、その遺言書の存在が不明となる事態を防止するための制度が新設されました。