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2018年11月14日

相続放棄~相続財産からの葬儀費用の支払が法定単純承認となるか~

私の父が、急に亡くなりました。相続人は、私と母のみでした。父と母は、不仲となり、離婚はしていないものの別居していました。急だったこともあり、私たちにも葬儀費用の準備がなく、やむなく、父の遺産(相続財産)から、父の葬儀費用100万円をだし、家族葬をしました。父の死後から1ヶ月程度たった頃、母から、父が生前、借金をしていたようで、1000万円の支払請求が相続人として母宛に請求されたと連絡が来ました。父には他にみるべき財産はありません。私と母は、父の相続財産の相続放棄をしたいと考えています。すでに父の相続財産から、葬儀費用を支出している私たちでも相続放棄できますでしょうか。

(*)相続法改正施行前の条文引用です。
相続放棄(民法915条・938条)とは、被相続人の相続財産を承継することを放棄する手続きです。
今回の問題点は、相続放棄前に被相続人(父)の相続財産から、父の葬儀費用を支払ったことが「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号)に該当し、すでに単純承認をしていることから、相続放棄ができないのではないかの点にあります。
 民法921条1号の趣旨は、「本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があつたと信ずるのが当然であると認められることにある」(最判昭和42・4・27)としています。この判例を前提とすると、一般的な処分すべてが含まれるとは解されません。
 葬儀費用に関しては、社会的儀礼として必要性が高いこと、葬儀の時期を予想するのは困難であること、葬儀費用は相当額伴うこと等の理由から、葬儀費用は、相続財産の処分に該当しないと考えられます(大阪高決平成14・7・3,東京地裁平成19・10・31等)。
 従って、今回の場合は、相続放棄が可能かと思いますので、家庭裁判所で期間内に相続放棄の申述をしてください。