2018年10月27日
独占禁止法~抱き合わせ販売等(一般指定10項)~
1 条文 (一般指定10項)
相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役
務を自己または自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。
2 制度趣旨
能率競争を阻害する。すなわち、選択の自由を妨げるおそれがあること。
他の商品又は役務の市場閉鎖効果を生じさせ、他の商品又は役務において競争者の競争商品が不当に排除される側面がある。
3 要件
(1) ①相手方に対し、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己または自己の指定する事業者から購入させること(抱き合わせ販売)
②相手方に対し、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること(取引強制)
(2) ①について
ア 相手方=事業者・消費者を問わない。
イ 「他の商品又は役務」とは、抱き合わされる商品・役務を指し、主たる商品等と異なる商品等であることを要する。
→異なる商品か1つの商品かは、組み合わせによって、内容、機能に実質的な変化がもたらされたか、組み合わされた商品が通常1つの単位として販売または使用されているか否かなどを考慮し、判断する。
→2つの商品を組み合わせて販売する場合であっても、それぞれの商品を別々に購入する選択の自由が確保されていれば原則として本項に該当しない。
(2) ②について
ア 抱き合わせ販売以外の取引強制が対象となる。
イ 「強制をすること」とは、誘引の程度を超えて取引をするように余儀なくさせること←相手方が現実に自己の顧客になったかどうかは問題とならない。
3 判審決例
(1) 代表的な行為類型
タイイング商品について市場支配力を有する事業者が、自己のタイ
イング商品の購入とタイト商品の購入を義務付ける(条件付ける)こ
とによって、タイト商品市場において競争品を排除する行為。
(2) マイクロソフト(抱き合わせ)事件(勧告審決平10・12・14審決)
ア 事案
① 表計算ソフト市場
平成5年頃からマイクロソフト社の「エクセル」が市場占有率第1位
第2位ロータス社「1-2-3」
② ワープロ市場
平成6年頃市場占有率
1位 ジャストシステムのワープロソフト「一太郎」
2位 マイクロソフト「ワード」
③ 基本ソフトウェア市場→「ウインドウズ」で独占的地位を占めるマイクロソフト社は、平成7年以降、「ワード」の市場占有率を高めて供給拡大を図るため、富士通、日本電気などのパソコン製造業者との間で、自社の「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載(組み込ませること)して出荷する権利のみを許諾するライセンス契約を締結し、パソコン製造販売者に「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを販売させた。
④ ③の契約交渉過程で、マイクロソフト社は、パソコン本体に「エクセル」と「一太郎」を併せて搭載する許諾を受けたい、また「エクセル」のみを搭載する許諾を受けたい旨の要請を受けたが、いずれの要請も拒絶した。
⑤ マイクロソフト社は、平成9年以降、スケジュール管理ソフト「アウトルック」の供給開始にあたり、パソコン製造販売業者に対して、「エクセル」「ワード」及び「アウトルック」を併せてパソコン本体に搭載または同梱して出荷する権利のみを許諾するライセンス契約を締結し、パソコン製造販売業者に「エクセル」「ワード」および「アウトルック」を併せて搭載または同梱したパソコンを販売させた。
⑥ マイクロソフト社の③ないし⑤の行為により、平成9年度に、ワープロソフト市場で同社の「ワード」が、またスケジュール管理ソフト市場で同社の「アウトルック」が市場占有率1位を占めるに至った。
イ 勧告審決
① マイクロソフト社の③ないし⑤の行為は不公正な取引方法の本項(抱き合わせ販売)に該当し19条に違反するとした。
② 排除措置命令
・パソコン製造販売業者に「エクセル」をパソコン本体に掲載又は同梱して出荷する際「ワード」を併せて搭載又は同梱させている行為、さらに、「エクセル」および「ワード」をパソコン本体に搭載又は同梱させている行為を取り止めること
・パソコン製造業者から「エクセル」「ワード」「アウトルック」を個別にパソコン本体に搭載又は同梱して出荷したい旨の申し出を受ける場合にその申し出に応じること等
④ 認定事実
・本件抱き合わせを開始した平成7年時点で、マイクロソフト社の「エクセル」が表計算ソフト市場において第1位の市場占有率を有し、本件抱き合わせを実施する意図がワープロソフト市場において自社の「ワード」の市場占有率を増加させることにある。
・表計算ソフト「エクセル」と自社のワープロソフト「ワード」とを併せて供給することを正当化する自由も特段存在していない。
・平成9年度、マイクロソフト社のワープロソフト「ワード」が大幅に市場占有率を増大させて市場占有率第1位となる一方で、ジャストシステムのワープロソフト「一太郎」は大幅に市場占有率を低下させた。←本件行為結果、ワープロソフト市場における競争を実質的に制限したといえるだけの悪影響が生じた。
(3) 東芝エレベータテクノス事件(大阪高判平5・7・30審決)
ア 事案
① 東芝エレベータテクノス(以下「東芝エレベータ」という)は、エレベーターメーカーである東芝の子会社で、同社の製造するエレベーターの保守点検を業とする会社(メーカー系保守業者)
② 同社は東芝製エレベーターの保守に関して約90%の市場占有率を有している。
③ 東芝エレベーターの交換部品を独占的に管理、販売している。
④ 同社は自己の保守契約先以外からの部品の注文についてはそれがエレベーターの所有者または所有者の意向をくんだ者からの依頼であり、かつ当該部品が機器性能・安全性に影響を及ぼさない場合以外は部品売りを行わず、労務費込の有償工事としてのみ受注することという方針を採用し、実施した。
⑤ A、Bは、東芝製エレベータ-の設置されているビルを所有する会社であり、それぞれメーカーの系列下にないエレベーターの独立保守業者である甲(A)、乙(B)との間にエレベーターの保守点検契約を結んでいた。
⑥ Aの場合
昭和59年5月、Aのエレベーターが下降時スタートショックを起こし、その後も3・4回正規のエレベーター停止位置以外の場所で突然停止したり、乗客が缶詰状態になる事故を起こした。Aが甲にとともにその故障原因を調査したところ、完全に修理するには、不良箇所が発見された部品を交換する必要があることが判明した。そこで、Aが東芝エレベータに対して必要な部品を発注したところ、東芝エレベータは「保守部品だけの販売はしない。取替調整工事をあわせて発注しなければ注文に応じない。部品の納期は3か月先である。」と回答し、再度の督促に応じなかった。
⑦ Bの場合
昭和59年8月9日、B所有のエレベーターが階と階との間で停止するという故障を起こした。乙が当該エレベータ-の故障原因を調査したところ、部品の不良を発見し、その部品の取替修理が必要であると判明した。
そして乙は「(当該)部品を被告から購入して修理する方法を考えたが、独立系保守業者がメーカー系保守業者たる被告に部品の注文をしても、不供給または売り渋りの妨害を受けることがあったので、修理を被告に依頼すれば(当該)部品の取替修理を行ってくれると思」い、Bの名義で東芝エレベータに当該故障の修理を依頼した。
これに対して、東芝エレベータは翌日、応急措置をしたが、部品がないので3ケ月後に部品が入れば取替えに来るとのことで帰った。
さらに翌日、また同様の故障が生じたことから、乙はビルの建築請負業者に依頼して部品供給を催促してもらったところ、東芝エレベータは翌日部品を持参して取替工事を行った。このため乙はBの信用を失い、保守点検契約を解約された。その後、東芝エレベータとBとの間でエレベーターの保守契約をした。
イ 大阪高裁の判断
甲・乙は、東芝エレベータの行為が不公正な取引方法に該当し、民法709条に違反するとして提訴
→「不当」とは、公正な競争を阻害するか否かの有無により判断→商品の安全性の確保は、直接の競争の要因とはその性格を異にするけども、これが一般消費者の利益に資するものであることは言うまでもなく、広い意味での公益に係わる→商品の安全性の確保が公正な競争を阻害するか否かを判断する一要因となるとした。
→旧15項
→+「本件各部品とその取替え調整工事とは、それぞれ独自性を有し、独立して取引の対象とされて」おり、「このような商品と役務を抱き合わせての取引をすることは、買い手にその商品選択の自由を失わせ、事業者間の公正な能率競争を阻害」すると認定した。
(4) 藤田屋(ドラゴンクエスト)事件(審判審決平4・2・28)
ア 検討
→・ゲームソフトの第2次卸売販売業界10%
・ドラクエ4の販売にあたり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図
・取引小売業者310店に対して過去の取引実績に応じた数量配分として約7万3300本を販売することとした上、過去の取引実績に応じた数量配分以上の購入を希望する小売業者に対しては、平成元年12月下旬以降、同社に在庫となっているゲームソフト3本を購入することを条件にドラクエ4、1本を販売する等を通知して、その販売条件に応じて購入を希望した小売業者25店に対して、合計でドラクエ4約1700本と在庫となっている他のゲームソフト約3500本を抱き合わせて購入された。
イ→抱き合わせ販売に該当するか。
以上
(参考文献)
1 条解独占禁止法
2 論点体系独占禁止法
3 独占禁止法概説【第5版】
4 公正取引委員会HP
5 ケースブック独占禁止法
6 公正取引審決判例精選