2018年10月27日
独占禁止法~知 的 財 産 権 の 行 使 行 為(21条)~
1 条文 (21条)
この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法に権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
2 制度趣旨
(1) 日之出水道機器(最高数量制限)事件(知財高判平18・7・20)
本条の趣旨は「特許権等の権利行使と認められる場合には、独占禁止法を適用しないことを確認的に規定したものであって、発明、考案、意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的(特許法1条、実用新案法1条、意匠法1条)とする特許制度等の趣旨を逸脱し、又は上記目的に反するような不当な権利行使については、独占禁止法の適用が除外されるものではないと解される」
(2) ソニー・コンピュータエンタテイメント(SEC)事件(審判審決平13・8・1)
「著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても、競争秩序に与える影響を勘案した上で、知的財産保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為が同条にいう『権利の行使と認められる行為』と評価されず、独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される」→公正取引委員会は、一貫して、本条を確認規定にすぎず、「権利の行使と認められ」ない行為には独禁法を適用することを明らかにしている。
3「著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法」による権利の行使
(1) 適用除外が認められる知的財産権の範囲
→公正取引委員会は、本条所定の法律に基づく知的財産についてのみ独占禁止法の適用除外の対象に限定されるものではなく、広く知的財産権について適用除外を認めている。
(2) ノウハウとして保護される技術
→ノウハウとして保護される技術についても本条による適用除外を認めている。
→但し、知的財産ガイドライン「ノウハウとして保護される技術はこれらの法律によって排他的利用権を付与されるものではないため、同条の規定は適用されないが」「ノウハウは特定の法律で独占的排他権が付与されるものではないため、特許権等によって保護されるものと比べ、保護される技術の範囲が不確定であること、保護の排他性が弱いこと、保護期間が不確定であること等の特質」「を有していることから、それらの特質を踏まえつつ、独占禁止法第21条が適用される技術と同様に取り扱われる」と明記して、ノウハウとして保護される技術についても本条による適用除外を認めている。
(3) 技術以外の知的財産権と適用除外
→知的財産ガイドラインは、知的財産のうち、技術に関するもののみを対象としているが一般に知的財産権は技術に関するものに限られないことおよび本条は広く知的財産に関する法律を列挙していることから、適用除外を認めることに実益があるかについてはひとまず措くと、本条に基づく適用除外の対象を「技術」にのみ限定する理由はないように思われる(←条解独占禁止法552頁)。
4 「権利の行使と認められる行為」
(1) 概要
ア 知的財産ガイドライン→①「そもそも権利の行使とはみられない行為」②「外形上、権利の行使とみられるが実質的に権利の行使とは認められない(評価できない)行為」および③「権利の行使と認められる行為」(権利の行使と評価できる行為)を区別している。
イ ②→知的財産ガイドライン→「権利の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合は、上記第21条に規定される『権利の行使と認められる行為』とは評価できず、独占禁止法が適用されるとして、権利の行使とみとめられるような行為であっても、知的財産制度の趣旨を逸脱しまたは制度目的に反すると認定される場合には、当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されない。
(2) 趣旨
「権利行使と認められる行為」の解釈を通して、知的財産権として「認められた権利の本質を否定したり、または」知的財産権の「規定の修正、解釈の変更に及ぶような場合でない限り、独禁法は適用される」ことを意味している。
(3) 判審決例の動向
ア 審決
①ソニー・コンピュータエンタテイメント(SEC)事件(審判審決平13・8・1)→本件ゲームソフトは映画の著作物であり、「頒布権」の対象となることから、中古品の販売禁止は著作権による「権利の行使と認められる行為」に該当するものとの被審人の主張に対し、頒布権の行使ともとめられる行為にあたるとしても、再販売価格の拘束行為と一体となりその実効性確保措置であることを理由に、著作権保護制度の趣旨を逸脱しまたはその目的に反するものであって、「権利の行使と認められる行為」には該当しないものと判断した。
②第一興商事件(審判審決平21・2・16)→使用許諾に関して、更新拒絶が競争事業者の事業活動を徹底的に攻撃していくとの方針のもとで行われたことや当該競争事業者の取引に影響を与えるおそれがあったこと等を理由に、「知的財産権制度の趣旨・目的に反しており、著作権法による権利の行使と認められる行為とはいえない」として本条による適用除外を否定した。
③(ア)パチンコ機製造特許(パンテントブルー)事件(勧告審決平9・8・6)(イ)着うた事件(審判審決平20・7・24)(ウ)コンクリート・パイル事件(勧告審決昭45・8・5)(エ)日之出水道機器事件(審判審決平5・9・10)→公正取引委員会は、本条による適用除外が論じられるまでもなく当然に独占禁止法の適用があることを前提に、独占禁止法違反に問擬しており、現在のところ本条に基づいて独占禁止法の適用除外を認めた審決は存在しない。
イ 高裁判決
①日之出水道機器事件(知財高判平18・7・20)→法21条は「特許権等の権利行使と認められる場合には、独占禁止法を適用しないとことを確認的に規定した」ものと解したうえで、日之出水道機器が、同社の仕様を採用している自治体においては「本件特許の実施許諾を通じてその市場を支配し得る地位にあることからすると、①[日之出水道機器]がその支配的地位を背景に許諾数量の制限を通じて市場における実質的な需給調整を行うなどしている場合には、特許件の不当な権利行使として、数量許諾制限について独占禁止法上の問題が生じうる可能性がある」ものとし、②数量制限の「結果としての需給調整効果が実際に実現されているとか、業者間の公正な競争が阻害されているといった事情」があれば独占禁止法に違反すること、③「特許権を有する者がこれを有しない業者と比べて価格面においてある程度有利な取引であることをもって不公正な取引方法であるとすることはできない」としたうえで、本件の価格設定について「不当に高額な価格設定であるとはいえ」ず、また「価格を高額に設定することによって需給調整的行為を行っていたともいえない」判示←本条の「権利行使と認めら」ない具体的な行為について示唆を与えている。
②着うた事件(東京高判平21・1・29審決)→レコード会社5社それぞれが有する著作隣接権に基づく原盤権の利用許諾の拒絶行為も、それが意思の連絡のもとに共同してなされた場合には、それぞれが有する著作隣接権で保護される範囲を超えるものであり、著作権法による権利の行使と認められる行為に該当しない。
(4) 関係ガイドライン
ア 知的財産ガイドライン
・私的独占に該当する行為について、①技術を使用させないようにする行為
→新規参入や特定の既存事業者に対するライセンスお合理的理由なく拒絶する行為
→競争者が利用する可能性のある技術を網羅的に集積し、自らは使用せず、競争者に対してライセンスを拒絶する行為等
②技術の利用範囲を制限する行為
③技術の利用に条件を付する行為
→必須技術(製品の規格にあたる技術または製品市場で事業活動を行ううえで必要不可欠な技術)について権利を有する者がライセンスに際し代替技術の開発・採用を禁止する行為等
・技術の利用にかかる制限行為関する「不公正な取引方法」について→①技術を利用させないようにする行為②技術の利用範囲を制限する行為③技術の利用に関し制限を課する行為④その他の制限を課する行為」に大別し、検討している。→公正競争阻害性は、①行為者(行為者と密接な関係を有する事業者を含む)の競争者等の取引機会を排除し、または当該競争者等の競争機能を直接的に低下させるおそれがあるか否か、②価格、顧客獲得等の競争そのものを減殺するおそれがあるか否かから判断されるが、ライセンサーの取引上の地位がライセンシーに対して優越している場合にライセンスにあたりライセンシーに不当に不利益な条件を付する行為については、「優越的地位の濫用」についての検討も必要となるとしている。
イ 標準化ガイドライン→知的財産ガイドラインを補完→標準化活動そのものについての独占禁止法上の評価と標準化活動に際して行われる取り決めについての考え方を示したガイドライン
ウ 共同研究開発ガイドライン
エ 排除型私的独占ガイドライン
以上
(参考文献)
1 条解独占禁止法
2 論点体系独占禁止法
3 独占禁止法概説【第5版】
4 公正取引委員会HP
5 ケースブック独占禁止法
6 公正取引審決判例精選