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2018年10月27日

独占禁止法~不公正な取引方法に関する基本4(不当廉売)~

第1 不当廉売 基本
1 不当廉売(条文構造)
(1) 法2条9項3号(法定不当廉売)
   正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
(2) 一般規定6項(指定不当廉売)
   法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に、商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。
(3) 法定不当廉売と指定不当廉売は、行為類型としては区別できず、判例法としても同一ルールに収斂していく。不当廉売の実質的要件は、排除型私的独占にあたる略奪的価格設定と同一である。
2 公正競争阻害性=自由競争減殺=自由競争減少(通説)
 (少数説)不当廉売を競争の場における力の濫用に連なる行為として捉え、資本力、経済力の大きな事業者が最終的には常に優位に立つことになる競争方法であり、特に原価以下の価格による販売(=原価割れ販売)は事業者の基本的性格を否定するものであるとする(参考文献3  
-214頁)。
 4 要件
 (1) 「低い対価」=市場価格を下回り、かつ原価を下回っている価格が目安となる。
 (2) 「継続して」=相当の期間にわたって、繰り返して廉売を行いまたはその蓋然性のあることであり、商品・役務の特性に応じて必要とされる廉売の期間、反復継続性が判断される。
 ・営業原価に販売費および一般管理費を加えた総販売原価を上回る対価は「不当に低い対価」に該当しない(東京地判平18・1・19審決)。
 ・事業者が複数の事業を営む場合の共通費用の割り振りについては、企業会計上の原則に従い、共通費用配賦方式により、共通費用を複数の事業に配賦して各事業の費用を算定することが合理的であるとしている(東京高判平19・11・28審決)。
 ・市場価格を超える対価は競争事業者を排除する競争阻害的効果を有しないから、市場価格を超えた対価(価格設定)は、「不当に低い対価」に該当しない(東京高判平19・11・28審決)。
 (3) 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」(=公正競争阻害性)→競争者が正当な企業努力によっても対抗できず、販売不振によって事業継続が困難になる「おそれ」があること→「おそれ」とは、具体的な競争の状況を踏まえるならば抽象的な危険性が論理的に認められることで足りる(参考文献3-213頁・214頁)。
 ・東京地判平18・1・19判決参考
 「他の事業者の事業活動を困難にさせる結果が招来される蓋然性が認められる場合」・・・①廉売を行っている事業者の事業の規模及び態様、②廉売とされている役務または商品の性質、その供給の数量及び期間、方法、③廉売によって影響を受けるとされている他の事業者の事業の規模及び態様等を総合的に考慮して判断するのが相当
第2 事例検討(公正取引審決判例精選13)
1 東京高判平成19年11月28日
  ヤマト運輸株式会社(X)は宅配便事業を営む国内最大手の事業者であり、一般小包郵便物サービス(ゆうパックサービス)を営む日本郵政公社(Y)と競争関係に立つ。従来Yの料金体系は荷物の重量を主要な基準として料金を決定する体系であった。ところが、Yは、平成16年10月1日から、荷物の寸法を主要な基準として料金を決定する新料金体系に変更することとし、Yの新料金体系はXの宅急便サービスの料金体系より低額となった。
  ・Xは業界1位・・・その後も、拡大傾向にあった。
   Yは業界5位
  ・Yは一般信書便事業の利益を合わせると原価割れしなかった。
→不当廉売に該当するか。
2 公取委排除措置命令平成19年11月27日
  栃木県小山市において、給油所を運営する株式会社シンエネコーポレーション(シンエネ)と株式会社東日本宇佐美(東日本宇佐美)が、ガソリンについて対抗的な廉売行為を繰り返した。
  小山市におけるガソリンの販売数量が石油製品の販売数量に占める割合は高く、同市におけるガソリンの販売シェアは、シンエネが約29パーセント(第1位)で、東日本宇佐美が約12パーセント(第3位)であった。両社は、平成19年6月に東日本宇佐美がシンエネの3給油所における販売価格と同額に引き下げたことを契機として、以降互いに販売価格の引き下げを繰り返した。シンエネは、3給油所で37日間仕入価格を最大で10円以下下回る価格で販売し、東日本宇佐美も3給油所で36日間又は37日間仕入価格を最大で10円以上下回る価格で販売した。他の事業者も両社に対抗して価格を引き下げを行ったものの、通常の企業努力では対抗できず、ほとんどの競争事業者は販売シェアを減少させた。
→不当廉売に該当するか。
(参考文献)
1 条解独占禁止法
2 論点体系独占禁止法
3 独占禁止法概説【第5版】
4 公正取引委員会HP
5 ケースブック独占禁止法
6 公正取引審決判例精選