2026年03月13日
私は夫から虐待されています。私には余命いくばくもありません。そのため、離婚等調停をする余裕もありません。しかし、夫には私の財産を1円も相続させたくないです。どうしたら良いでしょうか。~推定相続人の廃除~
第1 ご回答
推定相続人の廃除が考えられます。推定相続人の廃除は遺言でも可能です。また、婚姻を継続し難い重大事由の同程度の非行があれば認められる可能性があります。
第2 推定相続人の廃除の概要
1 推定相続人の廃除とは、推定相続人に、相続欠格のように相続資格を当然に否定するほどの重大な事由はないが、軽微な非行がある場合に、相続人の請求に基づいて、裁判所が相続人の相続資格を剥奪する制度です。
・第892条【推定相続人の廃除】
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
2 廃除は、被相続人又は遺言執行者の請求に基づいて、家庭裁判所の審判によってなされます。管轄は被相続人の場合は住所地、遺言執行者の場合は相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です。
・家事手続法188条1項
推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。ただし、これらの審判事件が被相続人の死亡後に申し立てられた場合にあっては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
3 廃除事由は、①被相続人に対する虐待、重大な侮辱、相続人の非行(民法892条)です。
次の審判例は判断基準として参考になります。
(1) 被相続人が遺言公正証書において夫である抗告人を廃除する意思を表示したことを理由に,遺言執行者である原審申立人が推定相続人廃除の審判を求めた事案において,推定相続人の廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱,その他の著しい非行は,被相続人との人的信頼関係を破壊し,推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものでなければならず,夫婦関係にある推定相続人の場合には,離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)」と同程度の非行が必要であると解すべきところ,本件では,抗告人の被相続人に対する廃除事由を認めることができないとして,原審判を取り消し,本件申立てを却下した事例(大阪高等裁判所令和2年2月27日決定・ウエストロー文献番号 2020WLJPCA02276022)です。
(2) 上記決定は、判断基準として「推定相続人の廃除は,被相続人の意思によって遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度であるから,廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱,その他の著しい非行は,被相続人との人的信頼関係を破壊し,推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものでなければならず,夫婦関係にある推定相続人の場合には,離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であると解するべきである。」としました。その上で、「被相続人は,本件遺言において,抗告人から精神的,経済的虐待を受けたと主張し,具体的理由として,①離婚請求,②不当訴訟の提起,③刑事告訴,④取締役の不当解任,⑤婚姻費用の不払い及び⑥被相続人の放置の各事由を挙げる。しかし,被相続人は,本件遺言時に係属中であった離婚訴訟において,婚姻を継続し難い重大な事由はないし,これが存在するとしても有責配偶者からの離婚請求であるか,婚姻の継続を相当と認めるべき事情がある旨を主張して争ったうえ,本件遺言作成の後に言い渡された上記離婚訴訟の判決において,婚姻を継続し難い重大な事由(離婚原因)が認められないと判断された。しかも,被相続人の遺産は,Dの株式など抗告人とともに営んでいた事業(D)を通じて形成されたものである。被相続人の挙げる上記①ないし⑥の各事由は,被相続人と抗告人との夫婦関係の不和が高じたものであるが,上記事業を巡る紛争に関連して生じており,約44年間に及ぶ婚姻期間のうちの5年余りの間に生じたものにすぎないのであり,被相続人の遺産形成への抗告人の寄与を考慮すれば,その遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものということはできず,廃除事由には該当しない。」としており、夫婦間での相続人の廃除において、婚姻を継続し難い重大な事由の有無が判断基準となるとした点で参考になります。
4 遺言による廃除とは、遺言によって廃除することです。廃除の意思が認められるか否かは、遺言の解釈に属することから、遺言書に明確に廃除の意思が記載されていなくとも、遺言書作成の経過などから、客観的に廃除の意思が認められれば廃除の申立てができます。
・第893条【遺言による推定相続人の廃除】
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
5 廃除は審判によってします(家事手続法188条1項により別表第一の86号・87号)。
6 推定相続人の廃除の審判確定前に相続が開始した場合は、遺産の管理について改定裁判所は、親族などの請求により、遺産の管理について遺産の処分禁止、遺産管理人による遺産の管理など必要な処分を命ずることができます。
(推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理)
第八百九十五条 推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。