2026年03月01日
入札談合と不当利得返還請求~東京高等裁判所平成13年2月8日判決(ウエストロー文献番号 2001WLJPCA02080002)~
1 事案の概要
X(国)は、平成元年八月から平成四年九月までの間、合計一九回にわたり、厚生年金保険等の年金受給者に対して支払通知等を行うための葉書に貼付する支払通知書等貼付用シール(本件シール)を指名競争入札の方法により発注した。
本訴は、Xが、指名競争入札に当たりYを含む五社の談合行為があったので、YとXとの間の本件シール製造契約は無効であると主張して、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、支払済みの代金と本件シールの客観的価格相当額を相殺した残金三億〇四一四万五八五五円の返還とその利息の支払を求めた事案である。
なお、Yは別途課徴金をX(国)に支払っている。
2 争点
(1) 指名競争入札における談合に基づく入札及びこれを契約の申込みとして締結された契約は有効か。
(2) 不当利得返還が認められる場合においても、課徴金相当額は不当利得額から控除されるべきであるか。
3 結論
(1) 争点(1)について
ア 結論
談合に基づく入札は、それ自体を無効なものと扱い、これに応じて落札者が決定され、契約書作成に至ったとしても、締結された契約も、当然無効となると解すべきである。
イ 理由
(ア) 会計法規の定める競争契約は、各省各庁の契約担当官が売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合に原則として採られる方式であり(会計法二九条の三第一項)、 その方法としては、特に必要があってせり売りに付される場合を除き、入札の方法が採られる(同法二九条の五第一項)。指名競争入札は、競争の参加者の範囲が指名業者に限られるものである。これらの競争に付される場合、契約担当官は、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とする(同法二九条の六第一項)。本件では、落札者の決定方法として、予定価格の制限の範囲内で最低価格をもって有効な入札を行った入札者を落札者とすると定められていた(〈証拠略〉)。契約担当官は、開札後、落札者を決定し、落札者との間で契約書を作成して契約を締結する(同法二九
条の八)。右のとおり、指名競争入札は、指名業者の間で契約を受注する価格について
競争を行わせ、競争によって形成された最高価格又は最低価格をもって契約を成立させ
ようとする制度である。このような方法が採られるのは、競争を行うことで、国の財源
を最も効率的に使用することができる契約を締結することができると考えられるからで
ある。しかし、競争の参加者の間において談合が行われた場合には、競争自体が存在し
ないのであり、競争による価格の形成はない。談合により指名競争入札制度の根幹が否
定されるのである。
(イ) 談合による入札が無効であることは、入札者心得書にも記載されており、官報
公示でも明らかになっている。そうすると、その入札が談合を理由に無効とされること
があっても、入札した者にとって、予想された事態が現実化したにすぎないのであり、
入札の無効によってその者が不利益を被っても、これを保護すべきであるとはいえな
い。他方、入札を有効とすると、国民全体が不利益を受けるのである。したがって、入
札制度の趣旨それ自体からみて、このような談合に基づく入札は当然無効であり、これ
を契約の申込みであるとしてされる契約も、その公序良俗違反性を別途検討するまでも
なく、当然に無効であるといわねばならない。
(ウ)裁判所が行う民事執行法上の不動産競売では、入札を行い執行官が最高価買受申出人を定めた後に、執行裁判所が買受人を決定する手続(最高価買受申出人に売却を許可するかどうか決定する手続)があり、入札に際し談合を行うことは、売却不許可事由に当たる。また、いったん売却許可決定がされても、その取消事由に当たる。しかし、会計法上の入札においては、開札に伴い落札者が決定されると、その者と契約書を作成する手続に移ることになる。落札者の決定の取消しなどの手続があるわけではない。
(2) 争点(2)について
ア 結論
課徴金は不当利得返還請求に影響を 与えない。
イ 理由
(ア) 独占禁止法における課徴金制度は、一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって、社会的公正を確保するとともに、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたものである。課徴金の納付命令は、右の目的を達成するために、行政委員会である公正取引委員会が、独占禁止法の定める手続に従ってカルテルに参加した事業者に対して課す行政上の措置である。
独占禁止法は、カルテル行為に対しては別途刑事罰を規定しているから、課徴金の納付を命ずることが制裁的色彩を持つとすれば、それは二重処罰を禁止する憲法三九条に違反することになる。したがって、課徴金制度は、社会的にみれば一種の制裁という機能を持つことは否定できないとしても、本来的には、カルテル行為による不当な経済的利得の剥奪を目的とする制度である。そして、このような課徴金の経済的効果からすれば、課徴金制度は、民法上の不当利得制度と類似する機能を有する面があることも否めない。
しかしながら、課徴金制度は、カルテル行為があっても、その損失者が損失や利得との因果関係を立証して不当利得返還請求をすることが困難であることから、カルテル行為をした者に利得が不当に留保されることを防止するために設けられたものである。そのような制度の趣旨目的からみるならば、現に損失を受けている者がある場合、その不当利得返還請求が課徴金の制度のために妨げられる結果となってはならない。すなわち、利得者はまず損失者にその利得を返還すべきであり、現実に損失者が損失を回復していないにもかかわらず、利得者が課徴金を支払ったことだけで、損失者の不当利得返還請求権に影響を及ぼすべきものではない。
(イ) Yは、課徴金を納付したのは国に対してであり、本件において不当利得返還請求をしているのも国であるから、国はすでに課徴金の支払を受けたことで損失の一部は回復している旨主張する。
しかし、同じ「国」であっても、課徴金の納付先である「国庫」と、本件の不当利得返還請求権の主体であるいわば公法人として民間の企業と同様の立場に立つ「国」とは区別しなければならない。課徴金が納付されたことは、本件の損失を回復することにはなっていないのである。
4 視点
入札談合が独占禁止法3条に違反した場合、入札談合に基づく契約も公序良俗に反して無効となる。最高裁判例は、独占禁止法に違反しても私的な契約は当然に無効にならないとしたが、入札談合の制度趣旨から違法性が強度である点にある。
また、課徴金と不当利得返還請求は、別の制度であり影響しないとしたが、「なお、民法上の不当利得制度において返還を命じられる不当利得と課徴金として剥奪を命じられる不当な利得とは、必ずしも同一範囲のものではない。しかし、利得者が、損失者にすべての利得を返還し、他に剥奪されるべき不当な利得はないにもかかわらず、なおも課徴金が課されるというときには、そのような課徴金の納付命令の合憲性については検討が必要であろう。また、すでに課徴金を納付した後、利得者が損失者にすべての利得を返還したという場合、先に納付した課徴金の扱いについても検討が必要な場合があろう。」として、減額の余地を認めた点は落としてはならないと考える。