2026年01月27日
民事訴訟において証拠が違法収集証拠として証拠能力が否定され排除されることはありますか?
1 結論
民事訴訟においても証拠が違法収集証拠として証拠能力が否定され訴訟法上の信義則(民事訴訟法2条)違反とされます。
2 判断基準
民事訴訟法が自由心証主義を採用し、証拠能力を制限する規定を何ら設けていないことからすれば、無断録音というだけで、原則として直ちに証拠能力が否定されることはないというべきであるが、当該証拠の収集の方法及び態様、当該証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性、当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し、当該証拠を採用することが訴訟上の信義則に反するといえる場合には、例外として、無断録音の証拠能力が否定されると解するのが相当である。
3 令和5年12月7日大阪地方裁判所判決(ウエストロー・2023WLJPCA12076002)
(1) 事案(裁判所の認定事実)
Aは、自身に対する悪口を言っている者を特定して証拠を得るために、令和3年3月頃から同年7月頃までの間、合計20回程度、他の人がおらず本件休憩室が空室になるおおむね昼過ぎから午後3時頃までに、録音機を本件休憩室内に置き、自身がその場にいない状態で本件休憩室内の会話を無断録音した(以下、Aによる上記録音を「本件無断録音」という。)。
(2) 裁判所の認定
Aが本件無断録音によって取得したものである。本件無断録音は、Aが自身に対する悪口を言っている者を特定して証拠を得るという、専ら自己の個人的利益を実現するにすぎない目的の下、令和3年3月頃から同年7月頃までの4か月間で合計20回程度、1回当たり3時間程度、録音機を他の人に気付かれないように本件休憩室内に設置して、会話の有無、会話者、会話内容のいかんにかかわらずこれを録音したというものであり、長期間にわたって不特定多数の者の会話を対象として包括的網羅的に証拠を収集するという点で、対面者との特定の会話を承諾なく録音するにとどまる場合とは全く異質の行為というほかない。そして、本件無断録音が行われた場所はいずれも本件休憩室であり、本件休憩室には鍵が掛かっておらず、複数人が出入りする可能性があるとしても、公共の場所とは異なり、基本的に本件会社の関係者しか出入りすることはない。また、本件休憩室内には、畳敷きの部分、ロッカー室、台所、洗濯室及びシャワー室があるほか、長テーブル及び椅子も置かれており、これらの設備を利用して本件会社の従業員が長距離のトラックによる運送業務のない間に休憩・休息や仮眠をとったり、気分転換のために雑談をしたり、業務に必要な話合いや会議をしたりできるようになっている。このような本件休憩室の特徴に照らすと、本件休憩室は、不特定多数の者が自由に出入りできる公共の場所とは異なり、その利用者が、その場に居合わせた者を確認した上で、私事にわたる事柄に限らず、それ以外の事項についてもその場限りのものとして発言することができ、あるいは、自由に個人的な行動に及ぶことができるという意味において、一定のプライバシー権が認められる場所ということができる。そうであるにもかかわらず、本件無断録音によって、本件休憩室を利用する従業員の休憩中の雑談や生活音、話合いの内容等が、本人が知らない間に長期間にわたって包括的網羅的に録音されていたのであるから、本件休憩室の利用者のプライバシー権は、本件無断録音により著しく侵害されたといわざるを得ず、その侵害の程度は対面者との特定の会話を承諾なく録音する場合とは比べることができないくらい深刻なものであったというべきである。
その上、本件無断録音は、企業秩序の観点から本件会社が許容するとは考え難く、建造物侵入罪に該当して刑事罰の対象となり得る行為であり、社会的に到底許容されない違法性が著しく強い行為というべきである。
この点、本件無断録音の証拠は、会話①及び②(注*Aに対する悪口の書き込みと同視の内容)そのものであり、Aの面前でこのような会話をすることは考え難いことから、会話①及び②の存在及び内容を立証する上で重要な証拠であることは否定できない。
しかし、個人の権利侵害の立証のためだけに、上記のような、社会的に到底許容されない態様で不特定多数の者のプライバシー権を著しく侵害する行為により収集された証拠が証拠能力を有するとなると、個人の権利救済のための立証という名目があれば違法行為によって目的をはるかに上回る権利侵害が際限なく許容されることとなり、これが妥当でないことは、民事裁判制度の趣旨・原則に照らせば、明白である。
4 視点
本裁判例は、違法収集証拠排除の事例として参考となる。不特定多数のプライバシー
権が侵害される場所での秘密録音は、その証拠が重要であっても、証拠能力が否定され
る可能性があることに注意を要する。他方で、無断録音であることのみで証拠能力が否
定されないことも重要である。