2025年10月23日
企業法務~業務上横領と訴因変更の要否について~最高裁判所第三小法廷令和7年10月20日決定について
1 最高裁判所第三小法廷令和7年10月20日決定は「全体が包括一罪を構成する長期間継続的に行われた業務上横領の事案について、月ごとの横領金額を明示した訴因に対し、第1審裁判所が、訴因を下回る合計横領金額を認定しつつ、横領の成立時期をより遅く認定した部分があることに伴い、一部の月の横領金額につき訴因に明示された金額を上回る金額を認定したという事情の下では、第1審裁判所が訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない。」としました。
2 その理由は「上記罪となるべき事実は、相当長期間にわたるものではあるが、共通の犯意に基づき、同一の被害者に対し、同一の業務上の占有を利用して継続的に行われたものであって、その全体が包括一罪と解されるものであるから、一部の月の横領金額について訴因に明示された金額を上回る金額を認定したとしても、全体として訴因を超える認定をしない限り、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要であるとはいえない。また、この種事犯における月ごとの横領金額が、一般的には被告人の防御にとって重要な事項に当たるとしても、第1審判決が、一部の月の横領金額につき訴因に明示された金額を上回る金額を認定したのは、横領の成立時期を訴因に明示された時期よりも遅く認定した部分があることに伴うものにすぎないから、その認定が被告人に不意打ちを与えるものとはいえない。さらに、合計横領金額について訴因を下回る金額を認定した第1審判決が、訴因に比して被告人に不利益な認定をしたものでないことは明らかである。」から訴因の審判対象確定機能、被告人の不意打ち防止機能に反しないからです。
3 全体が包括一罪を構成する長期間継続的に行われた業務上横領の事案においては、横領金額の日付や特定することが困難であるところ、訴因変更を要さずとも、上記の事情の下では業務上横領罪を認定しても違法ではないとした点で、業務上横領罪の成立が容易になったのではないか。企業法務において、社員の横領が発覚した場合について参考にすべきである。