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2025年10月18日

刑事訴訟法321条3項の「その真正に作成されたものであることを供述したとき」とはいかなる場合か?

1 刑事訴訟法320条1項は、原則として「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。」としています。伝聞証拠は、誤判が生じるおそれがあることから、被告人の反対尋問権を保障する必要があるからです。
2 その伝聞例外として、刑事訴訟法321条3項は、「検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわず、これを証拠とすることができる。」としています。
 「検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面」とは実況見分調書、検証調書等です。
3 「その真正に作成されたものであることを供述したときは」とは、「作成名義が真正であることのみならず、その検証が正確な観察によること、およびその結果を調書に正確に記載したことを供述(証言)したという趣旨」(条解刑事訴訟法第4版増補版866頁)です。被告人は、「観察や記載の正確性を吟味するために内容そのものについて尋ねることも反対尋問の範囲に含まれる」(同上)とされます。
 そして「複数の者による共同作成の場合」は、「そのうちの1名が証言すれば足りる」とされますが「現実に検証した者が部分的に異なるときは、その部分ごとに1名」とされている点に注意が必要です(同上)。
4 実況見分調書などの作成名義人が1名であっても共同して作成している場合があり、かつ、部分的に作成名義人が関与していない場合もありますので、反対尋問をする場合は、供述者が「検証した範囲」、それ以外に他の者が関与していないか、関与していた場合は、供述者と共同して観察、および観察の結果を正確に調書に記載したかを尋問する必要があります。実況見分調書などが証拠採用されますと、非常に信用性を高く評価する裁判官が多いと私は今までの弁護経験で感じています。そのため、真正に作成されたかどうかの尋問は非常に重要です。万一偽造された調書であれば冤罪を生む要因になるからです。
5 より良い刑事裁判の実現のためには、皆様が証拠法則なども知って頂きたいと思い作成しました。刑事事件でお困りの方は肥田弘昭法律事務所にご連絡ください。
(参考条文)
刑事訴訟法第三百二十一条 
① 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
一 裁判官の面前(映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法による場合を含む。次号において同じ。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
② 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
④ 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。