2025年09月14日
婚姻費用の合意無効確認の訴えは適法か。
1 結論
夫婦間における婚姻費用合意の無効確認を 求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである(令和7年9月4日第一小法廷判決)。
2 理由
(1)令和7年9月4日第一小法廷判決(以下「判決」と言います。)は、「過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁、最高裁平成3年(オ)第252号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号893頁照)。」して一般的な規範を確認し次のとおり理由を付けて確認の利益がないとしています。
(2)判決は、「婚姻費用の分担義務は、夫婦の生活の経済的な安定に関わるものである一方、その時々で変動する夫婦の収入、生活状況等の影響を受け得るものであることに照らすと、婚姻費用の分担の内容は、婚姻費用合意によって、以後、固定されるものではなく、適時に新たな形成があり得るものである。このため、婚姻費用分担審判の手続において、婚姻費用合意が有効に成立したか否かが争われるとともに、婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することを求める旨の主張がされた場合、家庭裁判所は、婚姻費用合意の存否、効力及び内容のみならず、夫婦の収入、生活状況等の一切の事情も踏まえ、婚姻費用の分担額やその支払の始期等を検討し、婚姻費用の分担の内容を新たに形成する審判をすることになる。そうすると、別途民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かが確定されていないからといって、家庭裁判所が婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することが妨げられるわけではない(なお、上記の場合において、当事者が、婚姻費用合意が有効に成立したとしてもこれと異なる分担額を形成するよう主張しているときは、家庭裁判所は、審理の結果、婚姻費用合意に基づく分担額を改めるべき事情がないとの結論に達したとしても、申立てを不適法却下することなく、当該分担額と同額の分担額を新たに形成する審判をすることができる。)。」との点を指摘しました。「家庭裁判所は、婚姻費用合意の存否、効力及び内容のみならず、夫婦の収入、生活状況等の一切の事情も踏まえ、婚姻費用の分担額やその支払の始期等を検討し、婚姻費用の分担の内容を新たに形成する審判をすることになる。」との点は、争いのある婚姻費用の額を最終的に決定するのは家庭裁判所の手続きであることを意味しており重要な指摘です。
次に、判決は、「婚姻費用の分担の内容の形成をすることができない民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かのみ確認することをあえて認めるとすれば、家庭裁判所がその帰すうを待つことになり、夫婦の生活の経済的な安定のため適時に審判によってされるべき婚姻費用の分担の内容の形成が遅滞することになりかねない。したがって、婚姻費用合意が有効に成立したか否かについて別途確認の訴えをもって争うことを認める必要があるとはいえず、これを認めることが適切であるともいえない。」として夫婦の生活の経済的な安定のため適時に審判によってされるべき婚姻費用の分担の内容の形成が遅滞することになりかねないとして別途確認の訴えをする必要性を否定しました。
3 注意点
上記の理屈は、養育費についても該当するかと思います。婚姻費用の合意や養育費の合意をした場合も、その無効確認ではなく、端的に調停(審判)を申し立てをして家庭裁判所で争うことが重要です。