2025年09月01日
登山に行くのにくまよけスプレーをバックの中に入れていました。この場合は、軽犯罪法1条2号に該当しないか不安です。くまよけスプレーを所持していても軽犯罪法1条2号に該当しないか参考になる判例があれば教えてください。
1 「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」(軽犯罪法1条2号)は、「これを拘留又は科料に処する」と規定されています。くまよけスプレーをバックの中に所持していますと「隠して携帯」したに該当します。また、くまよけスプレーは熊ですら撃退できる効果がありますので「人の身体に重大な害を加えるに使用されるような器具」に該当することになるかと思います。
2 問題は、くまよけスプレーを登山目的で所持していた場合に「正当な理由」に該当するかです。
催涙スプレーを携帯した事案ですが、判例(平成21年3月26日最高裁第一小法廷判決・ウエストロー文献番号2009WLJPCA03269001)で「正当な理由」について,『本号にいう「正当な理由」があるというのは,本号所定の器具を隠匿携帯することが,職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合をいい,これに該当するか否かは,当該器具の用途や形状・性能,隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係,隠匿携帯の日時・場所,態様及び周囲の状況等の客観的要素と,隠匿携帯の動機,目的,認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべきものと解される』として催涙スプレーの所持については『本件のように,職務上の必要から,専門メーカーによって護身用に製造された比較的小型の催涙スプレー1本を入手した被告人が,健康上の理由で行う深夜路上でのサイクリングに際し,専ら防御用としてズボンのポケット内に入れて隠匿携帯したなどの事実関係の下では,同隠匿携帯は,社会通念上,相当な行為であり,上記「正当な理由」によるものであったというべきであるから,本号の罪は成立しないと解するのが相当である。』と正当な理由があると判断されました。
上記判例からすると登山目的で登山のために専門店からくまよけスプレーを購入し、登山中に熊に遭遇した場合に身の安全の防御用として携帯していれば「正当な理由」が認められる可能性が高いと言えます。
他方、この判例の注目すべきは補足意見です。補足意見は『被告人は,本件の約1年前に職務上の必要から本件スプレーを入手し,必要に応じて携帯していたが,本件当夜,健康上の理由から深夜のサイクリングに出掛けるに際して,暴漢等との遭遇が考えられないでもない場所を通ることから,万一の事態に備えて防御用として同スプレーを隠匿携帯したものである。さらに,記録を調べても,被告人には,本件に至るまで前科・前歴がなく,犯罪とは無縁の生活を送ってきたと考えられるところ,本件スプレーの上記隠匿携帯につき,被告人が,暴漢等から襲われた際に身を守る以外の意図を有していたことをうかがわせる事情は見当たらない。当裁判所は,いわゆる体感治安の悪化が指摘されている社会状況等にもかんがみれば,前記のような事実関係の下における被告人の本件スプレーの隠匿携帯は,本号にいう「正当な理由」によるものであったと判断した。なお,防犯用品として製造された催涙スプレーであっても,現に,そのようなスプレーを使用した犯罪等も決してまれではないことからすれば,本号により取り締まることの必要性,合理性は明らかであって,犯罪その他不法な行為をする目的で催涙スプレーを隠匿携帯することが,上記「正当な理由」の要件を満たさないことはもとより,これといった必要性もないのに,人の多数集まる場所などで催涙スプレーを隠匿携帯する行為は,一般的には「正当な理由」がないと判断されることが多いと考える。』として、特に「これといった必要性もないのに,人の多数集まる場所などで催涙スプレーを隠匿携帯する行為」は「正当な理由」に該当しない場合が多い判断しています。くまよけスプレーも、市街地に熊が出没している地域は別ですが、登山目的でなく日常的に街中で持ち歩いている場合は「正当な理由」に該当しない可能性が高くなりますので注意が必要です。ご参考にしてください。