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2025年08月16日

相続と株式の権利行使!私の父は、〇X会社の株式を所持していました。父は先月亡くなりました。相続人は私と弟でした。私と弟は仲が悪かったので遺産分割出来ていません。弟は、私に黙って〇X会社の株主総会に参加し議決権を行使ました。弟は〇☓会社が株式の権利を行使することに同意したから良いと言っています。本当ですか?

1 結論
弟の株式の権利行使は違法である。株式会社の決議は決議方法が法令違反により取消となる。
2 問題点
 会社法106条但し書により、株式会社の同意があれば、弟の権利行使は適法とならないか。
(共有者による権利の行使)
第106条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
3 最高裁平成27年2月19日判決(ウエストロー文献番号 2015WLJPCA02199001)
(1) 共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま権利が行使された場合における同条ただし書の株式会社の同意の効果について
 判例は「会社法106条本文は,『株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない。』と規定しているところ,これは,共有に属する株式の権利の行使の方法について,民法の共有に関する規定に対する『特別の定め』(同法264条ただし書)を設けたものと解される。その上で,会社法106条ただし書は,『ただし,株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない。』と規定しているのであって,これは,その文言に照らすと,株式会社が当該同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。」として、結論として「共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。」とした。
(2) 共有に属する株式についての議決権の行使の決定方法について
 判例は「共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。」として、民法の共有の規定により規律されるとした。
4 注意点
 遺産分割協議が整わない場合は、相続人の相続分の過半数の同意により相続人一人を代表者にして株式の権利行使をさせる必要がある。相続人間の対立が激しい場合でも、株式の権利行使について相続財産の保存のため、全員の履利益になる場合は協力することを検討すべきである。