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2018年10月26日

~「発注機関として注意すべきこと」(入札談合等関与行為防止法と独占禁止法等)~

第1 発注機関として注意すべき法律
 1 参考事例
 ① S市発注のK観光ナイセンターの安全対策工事の指名競争入札で、
 S市のB職員は、A市が設定した最低制限価格を建設会社のC社長に漏らした結果、C社長は、最低制限価格に近い価格で入札した。C社長が競争入札に加入した2011年5月以降27件を落札し、うち9件が非公表の最低制限価格と同額だった。
 ② O市発注の市立小学校の遊具修繕工事の随意契約で、非公表の許容価格(予定価格)をO市のH職員が、工事会社のM社長に教えた結果、M社長は、3件の随意契約を請け負った。
 2 ①と②ともに入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下では「入札談合等関与行為防止法」といいます:注意・ニュースなどでは官製談合防止法と標記されている場合もあり)8条違反に問われた。
 2 入札談合等関与行為防止法とは?
 (1) 第1条(趣旨)
   公正取引委員会による各省庁の長等に対する入札談合等関与行為を排除するために必要な改善措置の要求、入札談合等関与行為を職員に対する損害賠償の請求、当該職員に係る懲戒事由の調査、関係行政機関の連携協力等入札談合等関与行為を排除し、及び防止するための措置について定めるとともに、職員による入札等の公正を害すべき行為についての罰則を定めるものとする。
 (2)  入札談合等関与行為防止法に違反した場合
  ア 行政上の措置
  ① 入札談合等関与行為を排除するための行政上の措置(3条)
  ② 当該行為を行った職員に対する損害賠償請求(4条)、懲戒事由の調査(5条)
  ③ 関係行政機関の協力規定等(7条・9条及び10条)
  イ 入札等の公正を害した職員に対する処罰(8条)
 (3)  入札等の公正を害した職員に対する処罰(8条)とは?
  ア 職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、賃借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
  イ 参考事例①②
    参考事例①②は、入札等の公正を害した職員に対する処罰(8条)
   違反に問われた。
 (4) 刑法上の贈収賄罪との違いは?
  ア 収賄罪(刑法197条1項)
    公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
  →請託とは、公務員に対し一定の職務行為を行うことを依頼すること(最判昭27・7・22)
  イ 加重収賄罪(刑法197条の3第1項)
    公務員が前2条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処する。
  →前2条に刑法197条1項も含まれる。違いは、不正行為などをしたか否か。
  ウ 収賄罪では、「賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき」との要件が必要である。
    「賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき」の要件を証拠に基づき立証することは困難である。そこで、参考事例①②のような場合は、入札等の公正を害した職員に対する処罰(8条)で逮捕勾留され、さらに収賄罪の可能性がないか捜査されるのが通常である。
    また、参考事例①②の場合、賄賂にあたる対価を収受していれば、特定の行為(随意契約の情報等)について依頼されるのが通常であるので、刑法197条1項但し書きないし、加重収賄罪に問われる可能性があり、非常に重い罪になる。
    加えて、国家公務員法などでは、通常、禁固以上の場合は、失職規定があり、収賄罪になると、入札等の公正を害した職員に対する処罰(8条)と違い、罰金刑がないので、失職してしまう(つまり、依願退職でないので、退職金等がでない。)。
 (5)  入札談合等関与行為防止法は、同法第1条に規定しているように公正取引委員会が主導のもと、入札談合を防止するために規定した。
  →したがって、入札談合等関与行為防止法違反しないためには、公正取引委員会が何をもって入札談合と認定するかを理解することが発注機関として注意すべき第1歩となる。
  →入札談合は、職員が関わってなくても、入札に加わる業者間でも起こることから、どのような事実をもって、公正取引委員会等が、入札談合と認定しているか把握することが、入札談合等を防止することにもつながる。
    そこで、第2として私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」といいます)の不当な取引制限を解説する。
第2 不当な取引制限の要件
 1 条文(2条6項)
  「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野を実質的に制限することをいう。
 2 要件
 (1) 相互拘束
  ア 相互拘束と遂行行為
行政上の措置をかすための行政手続では、遂行行為は相互拘束に付随して行われるもので、独自の存在意義はなく、相互拘束のみが問題となる。
   ただし、刑事手続では、入札談合の実行行為である一連の個別工事についての個別調整行為が不当な取引制限の罪を構成するとされる。
  イ 相互拘束
  (ア) 相互拘束とは、独立した複数業者間の取り決めを言う。→水平的制限と垂直的制限が含まれる。
  (イ) 相互拘束は、合意(単一かつ明示の合意)と意思の連絡が該当する。
   合意→直接証拠
   意思の連絡→実施行為、実施状況など間接証拠から推認
   ・東京高判平22・1・29)意思の連絡とは、複数事業者が同内容の取引拒絶行為を行うことを相互に認識ないし予測しこれを認容してこれと歩調をそろえる意思→他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思で足りる。
   (2) 一定の取引分野における競争の実質的制限
  ア 一定の取引分野
    一定の取引分野→関連市場→同種または類似の商品または役務について、供給者または需要者として、複数の事業者が生産、販売、技術等にかかる活動を行っている場
     イ 一定の取引分野における競争の実質的制限
    一定の取引分野における競争の実質的制限とは当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいう。
    →関連市場である一定の取引分野を画定して、そこでの市場支配力、具体的な競争制限効果、正当化事由、意図などを総合的に判断して決定される。
第3 入札談合の特質と基本先例
 1 入札談合
  (1) 入札談合は、法2条6項の不当な取引制限に該当すると法3条後段に違反する。
  (2) 入札談合における一定の取引分野は、特定官庁の発注する特定種類の契約ごとの入札として画定される。
  (3) 一定の取引分野における受注予定者を決定しその受注に協力する旨または受注予定者を決定するための基本ルールを定めてその受注に協力する旨の合意や、そのような内容の意思の連絡が、相互拘束に該当する。
  (4) 当該一定の取引分野において市場支配力を有する競争者らによる、受注予定者の決定に関する合意または意思の連絡が認められると、競争を実質的に制限するものとして不当な取引制限が成立する(合意時説)。
  (5) 独占禁止法は、違反行為者が事業者という身分をもつことを要件としており、不当な取引制限の禁止する排除措置命令、課徴金納付命令は入札談合に参加した事業者に対して下される。
 2 基本先例
  (1) 社会保険庁シール入札談合事件(東京高判平5・12・14)
   ア 事案の概要
    社会保険庁が平成元年度から導入した目隠しシールの指名入札に関して、指定業者であるトッパン・ムーア、大日本印刷、小林記録紙およびビーエフのうち、ビーエフを除く指名業者3社およびビーエフの営業代理をしていた日立情報の4社が、入札での競争を回避し、不当に落札価格を高くするため談合を行い利益を分配した。
   イ 判決要旨
    ① 被告4社の従業員が、被告会社の業務に関し、平成4年4月下旬、社会保険庁発注にかかる本件シールの入札について、「今後落札業者をトッパン・ムーア、大日本印刷及び小林記録紙の3社のいずれかとし、その仕事は全て落札業者から日立情報に発注するとともに、その間の発・受注価格を調整することなどにより4社間の利益を金乙にすることを合意した→被告会社らの事業活動を相互に拘束することにより、社会保険庁が発注する本件目隠しシールの受注・販売にかかる取引分野における競争を実質的に制限するものである。
    ② 一定の取引分野の判断→取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定→被告社会の従業員がした談合・合意の内容では、①社会保険庁から落札・受注する業者とその価格と、②落札業者から受注する仕事業者とその価格が一体不可分のものとしてなされていること→本件で「合意の対象とした取引及びこれによって競争の自由が制限される範囲」=社会保険庁の受注にかかる本件シールの落札業者、仕事業者、原反業者等を経て製造され社会保険庁に納入される間の一連の取引のうち、社会保険庁から仕事業者に至るまでの間の受注・販売に関する取引
     (2) 下水道事業団発注電気設備工事入札談合事件(東京高判平8・5・31)
    ア 事案の概要
      重電メーカーである被告会社9社は、いずれも日本下水道事業団発注にかかる電気設備工事の請負等の事業を営む事業者であり、平成5年に下水道事業団が指名競争入札の方法により新規に発注する電気設備工事について、平成5年3月10日頃、三菱電機本社において、被告会社9社が受注する工事の配分比率・配分手続等を定め、さらに、下水道事業団において該当工事の発注業務に従事していた者から工事件名、予算金額等の教示を受けて、これを相互に連絡するなどたうえ、同年6月15日、富士電機本社において、教示を受けた工事件名、予定金額等もとに、先に定めた配分比率、配分手続等に従い、前記新規工事を被告会社9社にそれぞれ配分して受注予定会社を決定するとともに、受注予定会社が落札して受注できるような価格で入札することを合意した。→被告会社9社は共同して相互にその事業活動を拘束することにより、平成5年度に下水道事業団が指名競争入札の方法により新規に発注する電気設備の受注にかかる取引分野における競争を実質的に制限した。
    イ 判決要旨
      ①受注調整のルールが毎会計年度末に見直して改訂することが了解事項となっており、実際にも毎年年度末に見直し、改訂作業が行われてきたこと、②受注調整の対象となる、工事の種類、件数、予算の額などは、国の政策や社会状況等により毎年度変化するものであること、③受注調整の実施にあたって、下水道事業団の工務部次長から新年度発注工事の件名、予算金額等の教示を受けることが必要不可欠であること→受注実態→受注調整による取引制限は各年度ごとに独立して行われているとした。
      ④工事に関する具体的情報に基づく受注調整によって、相互拘束による取引制限が完成するという観点から、前記①から③に至るもので一連の行為が実行行為にあたり③の時点で既遂となるとした。
3 独占禁止法上のエンフォースメント(制裁措置)等
  ①排除措置命令(7条)
  ②課徴金(法7条の2)
 4 刑罰(89条)
第4 まとめ
   発注機関として注意すべきことは、入札談合等が行われていないか、又、職員が関与していないかについて、上記の法律関係の要件を理解し、意識する必要があります。
   入札談合については、入札談合を防止する観点から、実効性を確保するため、公正取引委員会が主導して、入札談合等関与行為防止法が制定されていることから、発注機関側も、同法をよく理解して、職員等に周知徹底すべきことがコンプライアンスの第一歩です。

(参考文献)
1 条解独占禁止法
2 論点体系独占禁止法
3 独占禁止法概説【第4版】
4 公正取引委員会HP
5 ケースブック独占禁止法
6 公正取引審決判例精選
7 入札談合の防止に向けて(平成26年10月版) 公正取引委員会事務総局
8 経済刑事裁判例に学ぶ不正予防・対応策(経済法研究会)