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2025年05月13日

公正取引委員会のホテルの事業者に対する警告等について

第1 公正取引委員会のホテルの事業者に対する警告等について
1 令和7年5月8日 ホテルの運営業者に対する警告等について公正取引委員会は、ホテル運運営事業者が独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反するおそれがある行為を行っていたものであるとして警告をしました。
2 警告の概要は次の通りです。
 (1)15社がそれぞれ運営する別表の「対象ホテル」記載欄の各ホテルは、相互に、毎月の客室稼働率、客室平均単価、販売可能な客室1室当たりの収益、将来の予約状況、将来の客室単価の設定方針等の情報を交換していた。
 (2) 15社の前記の行為は、独占禁止法第2条6項に規定する不当な取引制限に該当し同法第3条の規定に違反するおそれがあることから、公正取引委員会は、15社に対し、今後、前記と同様の行為を行わないように警告した。
3 「毎月の客室稼働率、客室平均単価、販売可能な客室1室当たりの収益、将来の予約状況、将来の客室単価の設定方針等の情報を交換していた」行為がなぜ不当な取引制限に該当するおそれがあったかを解説します。
第2 不当な取引制限について
1 条文(2条6項)
  「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野を実質的に制限することをいいます。以下では、不当な取引制限の要件を解説します。
 2 要件
 (1) 相互拘束
  ア 相互拘束と遂行行為
行政上の措置をかすための行政手続では、遂行行為は相互拘束に付随して行われるもので、独自の存在意義はなく、相互拘束のみが問題となります。
   ただし、刑事手続では、入札談合の実行行為である一連の個別工事についての個別調整行為が不当な取引制限の罪を構成するとされています。
  イ 相互拘束
  (ア) 相互拘束とは、独立した複数業者間の取り決めをいいます。
  (イ) 相互拘束は、合意(単一かつ明示の合意)と意思の連絡が該当します。
   ① 合意があれば直接証拠となります。
   ② 意思の連絡は、実施行為、実施状況など間接証拠から推認されます。
   ・東京高判平22・1・29)意思の連絡とは、複数事業者が同内容の取引拒絶行為を行うことを相互に認識ないし予測しこれを認容してこれと歩調をそろえる意思→他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思で足りる。とされています。
   (2) 一定の取引分野における競争の実質的制限
  ア 一定の取引分野
    一定の取引分野→関連市場→同種または類似の商品または役務について、供給者または需要者として、複数の事業者が生産、販売、技術等にかかる活動を行っている場を言います。
     イ 一定の取引分野における競争の実質的制限
    一定の取引分野における競争の実質的制限とは当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいいます。関連市場である一定の取引分野を画定して、そこでの市場支配力、具体的な競争制限効果、正当化事由、意図などを総合的に判断して決定される。
 3 本件の警告について
(1) 本件においては東京都内のホテル事業を一定の取引分野と公正取引委員会は認定したと思われます。15社の所在地が東京都内だからです。
(2) そして、相互拘束としては、前記の情報の性質からして、客室単価を予測できる情報であり、その情報を交換することにより、黙示的に暗黙のうちに、ホテル宿泊代の価格を揃える意思が推定できるとされたのではないかと考えられます。
(3)  それにより、15社のホテル事業者が共同して、東京都内のホテルの宿泊施設の料金の価格競争を阻害する「おそれ」があることから、不当な取引制限に該当する「おそれ」があるため、情報交換をやめるように警告したと説明ができます。

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