2025年04月22日
下請業者と親事業者間に下請代金の合意がない場合で親事業者の行為が「買いたたき」に該当した場合に民法上の不法行為が成立するか(第一法規D-1Law.com判例体系判例ID28322815:東京地方裁判所令和2年(ワ)第32661号)。
1 東京地方裁判所令和2年(ワ)第32661号は、下請法の買いたたき行為について司法上の不法行為が成立場合の要件を定立した点で参考になります。
2 事案の概要は「原告が、被告から装置や部品等の製作の委託を受けて複数の請負契約を締結し、それらを完成させたにもかかわらず、被告がその製作に要した費用の原価すら下回る著しく低い対価しか支払わなかったなどと主張して、被告に対し、主位的に、〈1〉下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)の買いたたき行為及び独占禁止法の優越的地位の濫用を理由とする不法行為に基づき、損害賠償金合計2億3355万0403円及びこれに対する不法行為の日である令和元年9月20日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求め、(上記〈1〉のうち、買いたたき行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求との関係で)予備的に、〈2〉上記請負契約(予備的に商法512条)に基づき、通常支払われる対価から既払金を控除した残額である報酬2億0324万6548円及びこれに対する支払期限の翌日である令和元年9月21日から支払済みまで平成29年法律第45号による削除前の商法514条所定の利率(以下「商事法定利率」という。)である年6%の割合による遅延損害金の支払を求める事案」です。結論としては、親事業者が下請け業者に相応の対価の支払いがあったことから下請法違反による不法行為が成立しないとしました。
3 不法行為の成立要件として「同法がいわゆる取締法規にとどまる以上、被告の行為が同法上の買いたたき行為に該当したことの一事をもって、私法上の不法行為を構成するということはできない。被告の行為が、不法行為を構成する買いたたき行為に該当するといえるのは、原告における適正な原価と、それに対する一定の利益率(ただし、ここでは、原告が受け取るべき対価を算出するための、前記の「適正な原価」に対する割増率をいうものとして用いる。以下同じ。)を勘案した原告の受け取るべき対価を措定した上で、それと被告の支払金額との間に著しい乖離があると評価でき、原告と被告との協議状況等といった他の要素を考慮しても上記の著しい乖離が正当化されないと判断される場合に限られるというべきである。」として、①原告における適正な原価と、それに対する一定の利益率(ただし、ここでは、原告が受け取るべき対価を算出するための、前記の「適正な原価」に対する割増率をいうものとして用いる。以下同じ。)を勘案した原告の受け取るべき対価を措定すること、②①と被告の支払金額との間に著しい乖離があると評価できること、③原告と被告との協議状況等といった他の要素を考慮しても上記の著しい乖離が正当化されないと判断される場合であることです。
4 買いたたき行為が私法上も違法となるか分水嶺として実務的に参考になるかと思います。