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2025年04月10日

財産分与の基準において存在する財産分与の対象財産中に、夫婦が婚姻中に取得した自宅不動産とその不動産の評価額を上回る住宅ローン債務が存在する場合における財産分与額の算定方法について判断した事例(東京高等裁判所令和6年8月21日判決)。

東京高等裁判所令和6年8月21日判決は、原則として「離婚における財産分与は、夫婦が婚姻期間中にその協力によって得た全ての財産(積極財産及び消極財産)を総合考慮して算定するものである以上、財産分与の対象財産中に不動産及びその評価額を超える住宅ローン債務が存在する場合において、他の財産分与の対象となる積極財産が存在するときは、それらの評価額を通算して財産分与の額及び方法を定めることが相当である」としました(いわゆる通算説)。
 しかしながら、「住宅用不動産は他の財産分与の対象となる財産(動産、流動資産)とは性質を異にし、住宅ローン債務は、当該不動産を取得することを目的とする借入債務であって、離婚の成立後の支払分は財産分与により当該不動産の全部を取得する配偶者にとってその取得するための対価的性質を持つ側面もあるといえるから、上記のような清算方法によったのでは財産分与における当事者間の衡平を害するというべき事情が認められる場合には、離婚後の当事者間の財産上の「一切の事情」として考慮して、上記清算方法と異なる財産分与の額及び方法を定めることにも合理性が認められる」としました。
 そして、いわゆる通算説を修正すべき事情として「不動産にその評価額を超える住宅ローン債務が存在し、他の積極財産の評価額と通算して財産分与の額を定める上記清算方法によれば、不動産を取得できない配偶者において、当該不動産からの退去を余儀なくされる上、分与されるべき財産が存在せず、あるいは離婚後の生活が困難となる程度に分与額少額となるような場合において、他方の配偶者が、所有名義人として当該不動産の使用収益を継続しつつ、離婚後の収入及び取得財産によって住宅ローン債務を返済することで最終的に負担のない同不動産の所有権を取得し、あるいはこれを処分することで一定の利益を得る相当程度の蓋然性が認められるときには、そのような帰結が離婚後の当事者間の財産上の衡平を害するものとして上記「一切の事情」として考慮すべき場合」としました。