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2025年04月01日

いわゆるマイナンバー制度が合憲とされた事例(最高裁判所令和5年3月9日第一小法廷判決・ウエストロー文献番号  2023WLJPCA03099001)

1 結論
憲法13条のプライバシー権を侵害しておらず、合憲である。
2 理由
(1)  「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁平成19年(オ)第403号、同年(受)第454号同20年3月6日第一小法廷判決・民集62巻3号665頁)」として最高裁判所は、国民の権利としてプライバシー権を認めました。
(2)  次にマイナンバー制度について「行政機関等が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為が上告人らの上記自由を侵害するものであるか否かを検討するに、前記第1の2(1)のとおり、同法は、個人番号等の有する対象者識別機能を活用して、情報の管理及び利用の効率化、情報連携の迅速化を実現することにより、行政運営の効率化、給付と負担の公正性の確保、国民の利便性向上を図ること等を目的とするものであり、正当な行政目的を有するものということができる。」として最高裁判所は目的の正当性を肯定しました。
(3)  最高裁判所は、次のとおり、目的を達成するための制度について①正当な行政目的の範囲内で行われていること、②例外事由を政令、規則に委任しているが白紙委任でないこと、③①の特に秘匿性の高い情報について正当な行政目的を逸脱する可能性があったとしても具体的な危険が生じていないことから、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害しないとしました。
 ア ①について
   「番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。」としさら「番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し、制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ、その提供を認めるとともに、上記例外事由に該当する場合を除いて他人に対する個人番号の提供の求めや特定個人情報の収集又は保管を禁止するほか、必要な範囲を超えた特定個人情報ファイルの作成を禁止している。」ことから「番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等は、上記の正当な行政目的の範囲内で行われているということができる。」としました。
 イ ②について
「番号利用法19条14号及び16号は、上記の特定個人情報の提供の禁止が解除される例外事由の一部の定めを政令又は個人情報保護委員会規則に委任するが、特定個人情報の提供が許されるべき全ての場合を同法に規定することは困難であり、その一部を政令等に委任することには合理的必要性があるというべきである。」として、「同条14号は、各議院が国会法104条1項により審査又は調査を行うときなどといった具体的な場合を掲げた上で、「その他政令で定める公益上の必要があるとき」と定めるものであり、法令の規定に基づく審査や調査等が行われる場合であって、上記の具体的な場合に準ずる公益上の必要があるときに限定して政令に委任したものと解され、白紙委任を行うものとはいえないし、これを受けた番号利用法施行令25条及び別表各号の内容をみても、上記の委任の範囲を超えるものとは認められない。また、同法19条16号も、具体的かつ詳細な規定である同条1号から15号までに準ずる相当限られた場合に限定して個人情報保護委員会規則に委任したものであり、白紙委任を行うものとはいえず、これを受けた同規則の内容をみても、上記の委任の範囲を超えるものとは認められない。」としました。
ウ ③について
  最高裁判所は「特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになるところ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、不当なデータマッチング、すなわち、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。」と問題点を指摘しました。しかしながら、マイナンバー制度は「個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うこと」、「特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこと」「以上の規制の実効性を担保するため、これらに違反する行為のうち悪質なものについて刑罰の対象とし、一般法における同種の罰則規定よりも法定刑を加重」していること、「独立した第三者機関である委員会に種々の権限を付与した上で、特定個人情報の取扱いに関する監視、監督等を行わせること」「番号利用法の下でも、個人情報が共通のデータベース等により一元管理されるものではなく、各行政機関等が個人情報を分散管理している状況に変わりはない」ところ「各行政機関等の間で情報提供ネットワークシステムによる情報連携が行われる場合には、総務大臣による同法21条2項所定の要件の充足性の確認を経ることとされており、情報の授受等に関する記録が一定期間保存されて、本人はその開示等を求めることができる。」こと、「上記の場合、システム技術上、インターネットから切り離された行政専用の閉域ネットワーク内で、個人番号を推知し得ない機関ごとに異なる情報提供用個人識別符号を用いて特定個人情報の授受がされることとなっており、その通信が暗号化され、提供される特定個人情報自体も暗号化されるものである。」ことから、「上記システムにおいて特定個人情報の漏えいや目的外利用等がされる危険性は極めて低いものということができる。」と評価しました。
 加えて「個人番号はそれ自体では意味のない数字であること、情報提供ネットワークシステムにおいても特定の個人を識別するための符号として個人番号が用いられていないこと等から、仮に個人番号が漏えいしたとしても、直ちに各行政機関等が分散管理している個人情報が外部に流出するおそれが生ずるものではない」こと、「個人番号が漏えいして不正に用いられるおそれがあるときは、本人の請求又は職権によりこれを変更するものとされている」ことから、「これらの諸点を総合すると、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等に関して法制度上又はシステム技術上の不備があり、そのために特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」としました。