岡山弁護士会所属
岡山富田町のかかりつけ法律事務所
肥田弘昭法律事務所

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2018年10月25日

建物賃貸借契約におけるトラブル対応

【相談】1
 甲さんは、乙さんに甲さん所有の建物を家賃月4万円、敷金8万円、契約期間2年で賃貸借契約をしました。連帯保証人は、乙さんのお母さんである丙がなりました。
 ところが、乙さんは、数ヶ月、家賃を滞納しました。乙さんの荷物は、部屋に残されたままです。
 甲さんは、乙さんの荷物がそのままで、家賃も滞納していることから、
①鍵を取り替えて、家賃の支払いを促したい
②乙さんの金目の物を処分して家賃を回収したい
と考えています。①と②の方法は法的に許されるでしょうか。
【相談2】
 相談1の乙さんは、数ヶ月、部屋に戻っておらず、丙に尋ねると、行方不明になっていることが判明しました。
 甲さんは、乙の家賃を滞納していることと、部屋にそのまま荷物があるので部屋を他人に貸せないので、
③乙の荷物を無断で処分したい
④事前に賃貸借契約書に動産処分の約条があったので、それに従って、処分したい
と考えています。③と④の方法は法的に許されるでしょうか。
【相談3】
 相談1の乙さんは、部屋の利用も無茶苦茶だったようで、タバコのヤニで汚れていました。
 しかし、乙さんは、もともと部屋は汚れていたと主張しています。
甲さんは、乙さんに、原状回復費用を請求する場合、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
【相談4】
 相談1の乙さんは夜中に大騒ぎをして近隣に迷惑をかけています。注意しても一向に改めません。乙さんとの賃貸借契約を解除することはできますか。
【相談5】
 乙さんは、家賃を1年間、払わないが、他に借りても居ないことから、賃貸借契約を解除せず、最終的に連帯保証人の丙に請求すればよいと甲は考えた。甲は、丙に家賃の請求を、乙が滞納しつづける限り、請求できるか。
1 滞納賃料の回収
(1) 自力救済の範囲
 ア 原則は、法的手続によらなければ違法になる(最判昭40・12・7判決)。
 イ 違反した場合は、刑事罰(住居侵入・窃盗・器物損壊など)、ロックアウトなどは民事上不法行為となり、損害賠償の対象となる。 
(2) 強制執行
  ・訴訟→執行の手順となる。
  ・不動産の価格(固定資産評価証明書)が基準となる。
  ・140万円以下・・・簡易裁判所・・・さらに60万円以下の場合は、少額訴訟を提起して、迅速な解決を図ることができる。
(3) 敷金→敷金から家賃滞納分を回収(但し、契約解除のタイミング。敷金だけでは担保されない損害がでる可能性が高い)。
(4) 連帯保証人
 ・実効性・・・県内だあるか、連絡がつくか等、保証人の資力は十分か。
 ・見直しを更新時に必ずすべき
 ・連帯保証人・・・家賃滞納など
 ・連帯保証人の責任の範囲(最判H9/11/13) →更新時に連帯保証人を更新拒否できる等
2 賃借人の建物・土地退去ないし明け渡し
(1) 原則は、法的手続によらなければ違法になる(最判昭40・12・7判決)。
(2) 動産処分等の事前条項の留意点
 ア 自力救済は原則として禁止されている。
 イ 例外的に厳格な要件の下で認められる。
   →法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対向して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で」のみ自力救済は許される(最判昭40・12・7判決)。
 ウ 自力救済特約をしていても無効とされる場合が多い(東京高判平3・1・29判時1376・64)。
(3) 緊急時における建物明渡し(借地借家契約特約・禁止条項集356頁)
  第○条 借主が本契約終了後に本貸室の明渡しをしなかった場合、法律の定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが著しく困難であると認められる緊急やむを得ない事情が存するときには、その必要な範囲内において、貸主が借主の費用負担にて本貸室内の物品の搬出・保管・処分をすることができることを借主はあらかじめ異議なく承諾する。
3 ペット・タバコ・ヤニなどの原状回復
(1) 原状回復とは、借主の善管注意義務違反その他通常の使用の結果とはいえない損耗(特別損耗)を回復すること(東京地裁判6・7・1等、原状回復をめぐるトラブルガイドライン参照)。
(2) トラブル防止
 ・裁判で何が必要か?・・・証拠が必要である。
  ① 入居前の写真  ② 退去後(クリーニング前)の写真 は最低でも確保しておくこと
(3) 原状回復の特約の検討
 (ポイント) 消費者契約法10条に違反しないように①通常損耗分についても借主負担とする旨を明記すること②借主が負担する通常損耗の範囲を賃貸借契約書に具体的に明記する③可能であれば借主が負担する通常損耗の修復に要する費用の概算・負担させる理由を記載する(参考・最判平17・12・16判時1921・61)。
 →+賃借人が、賃貸物件でトラブルが生じた場合の連絡先を明記しておく(連絡先が分からなかった等の反論がある場合があるため)
(4) 特約条項例(借地借家契約特約・禁止条項集247頁・260頁参照)
 (原状回復)
  第○条 借主は、第△条の賃料額が決定された経緯に鑑み(家賃が通常と比較して低額であることも考慮要素となるため)、本契約が契約期間の満了により終了するときは終了時までに、解除又は解約等により終了するときは終了後速やかに、借主の善管注意義務違反その他通常の使用に伴うものとはいえない損耗の回復に加えて、畳表の張替、襖の張替及びハウスクリーニングは借主の負担でこれを行うものとする。なお、これらに要する費用の概算は下記のとおりである。

     畳表の張替         1枚当たり 約○○円
    襖の張替           1枚当たり 約○○円
    ハウスクリーニング            約○○円
4 近隣トラブル
 (1) 賃貸借契約を解除については特約があると解除の際トラブルになりにくい。→契約条項に「騒音等迷惑防止行為の禁止」を明記しておくこと(東京地裁平22・11・19判決参照)。
 (2) ポイント  
ア 迷惑をかける言動の具体的内容をできる限り列挙する。
  イ 絶対的禁止事項として、承諾の余地のないものとする。
  ウ 禁止条項に違反した場合は、無催告解除事由とする。
 (3) 騒音等迷惑行為禁止条項例(借地借家契約特約・禁止条項集326頁)
  第○条 借主は、本物件の使用に当たり、大音量でテレビ、ステレオ等の操作、ピアノ等の演奏を行うこと、カラオケ等により大声で歌を歌いまた叫ぶこと、その他、物件の内外で大騒ぎをすることにより、近隣に迷惑をかけることは、一切行ってはならない。
  2 借主が前項に違反した場合、貸主は、催告なくして、この賃貸借契約を解除することができる。
5 連帯保証人の責任の範囲
 「賃借人が継続的に賃料の支払いを怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない」(最判平9・11・13)とされている点に注意すること。
6 まとめ
(1) 証拠化の重要性・・・特に原状回復の場合は、裁判所は、最低でも、入居前と退去後の部屋の写真を証拠として要求するので、写真をとることを徹底しておく。また、入居時と退去時に借主と確認しておくとなお良い。
(2) 契約書の重要性・・・合意があったかどうかが裁判の争点となる。そのため、契約書が決定的に重要である。そして、原状回復費用などは、消費者契約法に反しない限度で、具体的に明確に記入しておくこと(←定型の契約書は、原状回復や近隣トラブルの契約条項が具体的でなく、一文で書かれていることが多いことから、裁判では争点となってしま得可能性がある)。
(3) 弁護士への依頼
  弁護士への依頼は、家賃滞納の2ヶ月目程度が望ましい。なぜなら、裁判→執行まで早くとも4ヶ月程度かかる・・・敷金は通常家賃2ヶ月分が多いところ、そうであれば、少なくとも2ヶ月は敷金でカバー出来ないので、遅いと損害が拡大する。